ヤドリギとは
ヤドリギは漢字で「宿り木」または「寄生木」と表記します。ヤドリギはその名が表すとおり、ほかの木に寄生して成長する植物です。北欧神話に登場する植物ということもあり欧州文化と深いつながりがある植物ですが、日本でもケヤキやシラカバの木に寄生している姿が見られます。
基本情報
科目 | ビャクダン科ヤドリギ属 |
形態 | 常緑性低木 |
原産地 | アジア南部、ヨーロッパ西部 |
学名 | Viscum album |
英語名 | European mistletoe、common mistletoe |
和名 | ヤドリギ、セイヨウヤドリギ |
別名 | 寄生(ほや) |
特徴
ヤドリギは、ほかの木の幹などに根を張って、栄養を吸い取りながら成長します。しかし頼りっぱなしということではなく、自らも光合成できる力を持っていることから、半寄生生物とも呼ばれています。1年を通して観賞が楽しめますが、宿主の木が生い茂っている間はあまり目立たないので、見つけにくいでしょう。
花の特徴
ヤドリギは2月頃に花を咲かせます。花の色は黄緑色で、大きさは2cm程度ととても小さな花です。花が咲き終わると、小さくて丸い実がなります。
実の特徴
ヤドリギの実は白いものが多いですが、品種によっては黄色や赤色もあります。この実の内部はとてもネバネバしており、鳥が食べても種が消化されずにそのまま出てきてしまいます。ヤドリギは枝にぶら下がるように寄生するため、このネバネバは欠かせないものといえるでしょう。
葉・枝の特徴
ヤドリギの枝は二又に分かれていて、分枝を繰り返しながら成長します。葉の大きさは2~8cmで、細長く、へらに似た形です。常緑性で、冬でも枯れることはありません。この葉や枝を乾燥させて煎じることで、生薬としての効果を得られるといわれています。
名前の由来
その①学名の由来
ヤドリギの学名は「Viscum album」です。ラテン語が語源とされており、「viscum」はネバネバしたもの「album」は白いを意味しています。これは、ヤドリギの実の色が白く粘着質であることが由来です。
その②和名の由来
ヤドリギの和名は、その生態が由来とされています。ヤドリギは土に根を張ることはなく、サクラやシラカバのほかブナの幹や枝に根を伸ばして、養分を吸い取って成長する姿から名づけられました。
花言葉
花言葉①「困難に打ち勝つ」
ヤドリギの花言葉である「困難に打ち勝つ」は、緑が少なくなる厳しい冬の間でも常緑性を保っている、そんなヤドリギの姿に由来しています。
花言葉②「私にキスをして」
ヤドリギは、欧州ではクリスマスシーズンには欠かせない植物です。クリスマスの時期にヤドリギの下でキスをしてもよいという言い伝えから、この花言葉がつけられました。
キリスト教や神話との関係性
ヤドリギは欧州諸国では神聖な植物として、古くから愛されている植物です。なぜ、ヤドリギが神聖な植物といわれているのか、数ある伝説とともに神話や宗教との関係について見ていきましょう。
ケルト神話とヤドリギ
ケルト神話では、ヤドリギは儀式に欠かせないものです。とくに樫の木についたヤドリギは特別なもので、この木の下で儀式を行えば自身にも神様が宿り、永遠の魂をえられるといわれています。それは、ヤドリギが枯れることなく冬でも緑色をしていることになぞらえているのでしょう。
北欧神話とヤドリギ
北欧神話では、光の神バルドルの母フリックが世界中のすべての生き物にバルドルを傷つけない誓いをさせましたが、一番若い生き物だったため、ヤドリギだけは誓いをしませんでした。いたずら好きの神ロキがそのことを利用して、ヤドリギで作られた剣でバルドルが命を落とす伝説が語り継がれています。
キリスト教とヤドリギ
ヤドリギには、クリスマスの夜に木の下で立っている女性とキスをしてもよいという伝説があります。ルーマニアを中心に、ヤドリギは祝福の木といわれていました。その説がキリスト教に持ち込まれたことによって、キスの伝説が生まれたといわれています。現在ではクリスマスに恋人同士がキスをしたり、結婚の約束をしたりするなどと人々の幸せの象徴とされているのです。
キリストと関りがある?
ヤドリギには、イエス・キリストと関りがあるといわれています。ヤドリギはもともと大木で、キリストの十字架の材料に使われるはずでしたが、その状況を嘆いたヤドリギが姿を変えて、ほかの木に寄生する寄生木になったと伝えられています。キリスト教でもケルト神話と同様に、ヤドリギを命の象徴としてとらえられているのですね。
ヤドリギは魔よけになる
欧州諸国では、ヤドリギは魔よけの効果があるといわれており、クリスマスシーズンには玄関飾りに用いることがあります。ヤドリギは神様が宿る木で、とくに悪い妖精から子どもを守る意味も持っています。ヤドリギをリースにして、飾るのもよいですね。
日本におけるヤドリギは?
日本においてヤドリギは、万葉集で歌が詠まれています。
あしひきの 山の木末(こぬれ)の 寄生木(ほよ)取りて
插頭(かざ)しつらくは 千年(ちとせ)寿(ほ)くとそ
この歌の中に出てくる「寄生木(ほよ)」は、ヤドリギの古い呼び方です。ヤドリギが長寿のおまじないであるという意味がこめられています。この歌に詠まれているように、日本ではヤドリギは健康によいといわれており、枝や葉を乾燥させたものを薬として、現在でもサプリメントとして使用されています。
ヤドリギの栄養と効能
ヤドリギは生薬として用いられています。生薬としてのヤドリギは「桑寄生(そうきせい)」と呼ばれ、あらゆる体調の不調に効果が期待できます。ハーブティーとしても楽しめますので、健康のために取り入れてみるのもよいですね。
効能①ファイトケミカル
ヤドリギは、フラボノイドやタンニンなど、植物性由来の化学物質であるファイトケミカルを含んでいます。このファイトケミカルは、抗酸化作用や免疫力の向上が期待できる成分として、現在、注目されています。
効能②イライラの軽減
ヤドリギはストレスやイライラの軽減、血管の緊張をほぐす効果があるといわれています。また呼吸を整えて眠りの質を高めるほか、いびきの改善も期待できます。眠る前にヤドリギのハーブティーでリラックスするのもよいですね。
効能③鎮痛
ヤドリギの成分には、関節や神経の痛みに効果があるものが含まれています。薬として直接体内に取り入れるほかに、入浴剤としても効果的です。ヤドリギは、リラックスしたバスタイムを楽しむのにもよいでしょう。
効能④がん予防
ヤドリギにはレクチンやビスコトキシンという成分が含まれており、この成分ががん細胞の抑制に効果があるとされています。抗がん剤とヤドリギのエキスを併用することで、放射線治療の負担軽減や血球数の改善がみられるという研究結果が発表されています。
生薬としての注意点
ヤドリギには有毒成分が含まれており、加工せずにそのまま使うと副作用を起こす可能性があるため、ヤドリギを生薬として取り入れるには注意が必要です。医師や専門店の人などから、正しく処方してもらいましょう。
まとめ
ヤドリギの生態は少々不思議なものですが、欧州文化に深く根づいており、クリスマスには欠かせない植物です。日本では欧州ほどメジャーではありませんが、魔よけの効果や健康によいとされています。ハーブティーを飲みながら、リラックスしてすてきな伝説に耳を傾けるのもよいですね。
ヤドリギのハーブティーを楽しむときは、熱湯を少し冷ましたものを使うとよいですよ。熱湯を使うと有効成分が壊れてしまう可能性があるためです。