ガーデニングの厄介者のナメクジ
ナメクジ(蛞蝓)は、生物学上はカタツムリの仲間に分類される生物です。カタツムリは陸に生息する巻貝ですが、そのなかで貝殻が退化したものをナメクジと呼びます。日本でよく見かけるナメクジの多くはチャコウラナメクジというヨーロッパ原産の外来種です。日本に古くからいるヤマナメクジなどの在来種のほとんどは山野に生息するため、あまり見かけません。
チャコウラナメクジが日本に来たのは、1950年代頃に本州へ運ばれたアメリカ軍の物資に紛れ込んでいたという説が有力です。
農業やガーデニングでは害虫
ナメクジは鉢植えや花壇の植物、畑や家庭菜園の野菜を食害するため、農業や園芸の世界では不快害虫の一種とされています。ジメジメした場所を好むことや、独特のヌメヌメした見た目も不快感をもたらす生物として忌避される原因です。また、ナメクジは寄生虫や病原菌の宿主となっている場合もあります。うっかり触ってしまった場合は石けんでしっかり洗いましょう。
日本でよく見かける外来種のチャコウラナメクジは、「日本の侵略的外来種ワースト100」にも選ばれている駆除対象生物でもあるんだよ。
ナメクジの撃退法は?
ナメクジの撃退方法として、真っ先にあげられるのが「塩をかけること」です。ナメクジは塩をかけると、体が溶けて小さくなる現象が起きます。この現象は昔から知られていました。なぜナメクジに塩をかけると溶けてしまうのか、その理由を知る人は多くないかもしれません。
ナメクジに塩をかけるとなぜ溶ける?
塩で溶ける理由はナメクジの体質
ナメクジが塩で溶ける理由は、ナメクジの体質にあります。ナメクジの体は90%以上が水分です。このため乾燥に非常に弱く、大量の水分が失われると死んでしまいます。しかも、ナメクジには乾燥から体の組織を守る役目を担う皮膚や体毛がありません。代わりに薄い膜のようなもので体を覆い、常に体表から粘液を出すことで体を乾燥から守っています。
塩には対象物の水分を奪う性質があります。そのためナメクジに塩がかかると、大量に水分を取られて小さくなってしまうのです。
「ナメクジに塩をかけると溶ける」というけど、実際は水分を奪われて小さくなったのが、溶けているように見えているんだよ。
塩による浸透圧
塩がナメクジから水分を奪うのは、浸透圧という現象です。浸透圧とは物理化学の用語で、成分濃度が異なる複数の液体を混ぜると、同じ濃度になる現象をいいます。さらに詳しくいうと、混ぜた液体が同じ濃度になるために、成分濃度が低い液体の水分が成分濃度の濃い液体へと移動します。この移動するときに生ずる力が浸透圧です。
体の90%が水分のナメクジに塩をかけると、浸透圧作用によって、水分がナメクジの体よりも成分濃度が濃い塩へ移行するんですよ。
塩の浸透圧はナメクジ以外でも見られるよ。野菜の塩漬けも、塩が野菜から水分を取ることで、腐りにくくしたものなんだ。
ナメクジに塩をかける際の注意点
注意点①時間がかかる
ナメクジに塩をかける方法の注意点で真っ先にあがるのは、時間がかかることです。ナメクジに塩をかけると、浸透圧現象によってナメクジの体内の水分が塩に吸い取られてしまうため、溶けるように小さくなってしまいます。しかし、ナメクジの体が完全に溶けて消えるには、それなりの時間が必要です。塩の量が少ない場合も、吸い取る水分量が少なくなるため、駆除に失敗する恐れがあります。
ナメクジに塩をかけてから消えるまで、どのくらいの時間がかかるかというと、3分~5分くらいといわれているよ。
ナメクジの駆除にかかる時間は、塩の量や状態によって違います。直接大量の塩の上に置くと、3分未満で溶けて消えますよ。
注意点②水分があると復活する
ナメクジは乾燥に弱いですが、生命力の弱い生物ではありません。塩で体が溶けても、雨などで塩が流れ、水分が補給できれば復活します。ナメクジを塩で駆除するときは、水分を補給できないように天候や環境に注意しましょう。
注意点③大量発生時の駆除には不向き
ナメクジを塩で駆除する方法は、大量発生したナメクジの駆除にも不向きです。塩はナメクジから水分を吸収しますが、さすがに一瞬で死に至るほどの水分量は吸収できません。また、ナメクジからより多くの水分を取るために、塩の量も多くなります。このため、ナメクジが大量発生した場合、塩で駆除する方法は時間的にも経済的にも効率が悪いので向いていません。
注意点④周囲の土や植物に被害を与える
ナメクジを塩で駆除する場合、周囲の環境にも注意が必要です。塩の浸透圧によって水分を奪う性質は、ナメクジだけでなく、土や植物にも発揮されます。その結果、土や植物が水分不足になって枯れてしまうのです。ナメクジを塩で駆除するときは、植物が生えていない場所で行いましょう。
塩が原因で受ける害を「塩害(えんがい)」と呼びます。台風などで海水を含んだ雨が降ったり、潮風が吹いたりしたときに起こります。
土に大量の塩がまかれると塩害が発生するんだ。だから花壇や畑などでのナメクジ駆除は、塩以外の方法がおすすめなんだよ。
塩以外のナメクジ駆除方法
駆除方法①熱湯をかける
ナメクジは熱湯をかけると即死します。理由は熱湯がナメクジの体内に存在するタンパク質を固めてしまうからです。即効性に関しては塩を上回る駆除方法といえるでしょう。ただし、湯を沸かすのに時間がかかります。しかもナメクジが大量もしくは広範囲に発生した場合は、大量の熱湯を用意しなければならないため、大規模な駆除には向いていません。
熱湯の量はどのくらい必要?
ナメクジ駆除に使う熱湯の量は、1匹ならカップ1杯程度で十分です。複数の場合も、2匹~3匹と少数なら大量の湯を沸かす必要はないでしょう。ただし熱湯を扱う場合は、火傷に注意が必要です。また、熱湯が植物にかかると植物が傷んで枯れてしまいます。したがって、花壇や畑のような植物や野菜が栽培されている場所でのナメクジの駆除には向いていません。
熱湯を使う際は、自分だけでなく、子供やペットが火傷しないように注意してくださいね。
駆除方法②ビールを罠に使う
ビールを使った罠も、ナメクジ駆除に有効な方法です。ナメクジはビール酵母や麦芽の香りを好むため、ビールを入れた容器を庭に設置しすると、ナメクジ用の罠になります。ビールの香りにつられたナメクジを捕殺または溺死させるため、容器はある程度の深さがあるものを使いましょう。そのまま捨てられるペットボトルや牛乳パックがおすすめです。
ビールの量はどのくらい?
ビールの罠は、ビールの香りでナメクジを誘い込み溺死させるものです。ビールの量はナメクジが浸かる程度で十分でしょう。ただし、まれにアルコールに強く、罠から逃げ出してしまうナメクジがいます。より確実な効果を狙うなら、ビールに殺虫剤を混ぜておきましょう。
ビールの生産国で有名なドイツでは、昔からナメクジの駆除にこの方法が用いられていたそうだよ。
駆除方法③木酢液を使う
自然由来の害虫忌避剤として利用されている木酢液は、ナメクジの駆除にも有効です。木酢液は自然由来の液体ですが、強酸性のため殺菌力と殺虫力に優れており、ナメクジに対しても殺虫効果があります。ただし、ナメクジを駆除する場合は、濃度が低いと効果が薄れてしまいます。適切な濃度は、木酢液の種類やメーカーにもよりますが、30倍の濃度が一般的です。
木酢液の濃度は、使用目的やメーカーによって異なります。取扱説明書を確認して、目的に応じた濃度に希釈しましょう。
高濃度で希釈した木酢液は植物を傷めてしまう恐れがあるんだ。ナメクジを駆除するときは、植物にかからないように注意してね。
ナメクジは状況にあった方法で駆除しよう
ナメクジに塩をかける方法は、ナメクジの駆除方法として有名です。しかし即効性の低さや塩害を引き起こす恐れなど、実行する際には複数の注意点があります。ナメクジの駆除は塩以外にもいろいろな方法があるため、状況に応じてうまく使い分けましょう。
出典:写真AC