植物が受ける塩害
塩害とは塩分によって生じる害の総称です。海水や潮風の影響で鉄などは錆び、植物は枯れることがあります。このような現象は、通常は海の近くで起こりがちですが、ときには台風の通過時に、海水を巻き上げた風雨によって海から離れた土地でも害がもたらされます。また、海に関係なくさまざまな要因で土壌に問題が生じて起こる塩害もあります。
水分が失われて枯れる
植物の葉や花に塩が付着すると、外に引き出された水分が蒸散して枯れてしまいます。また、海水などの影響で土壌の塩分濃度が濃くなると、植物は水分を吸収しにくくなり、枯れることがあります。
ボタ爺
キュウリなどに塩を振ると、水分が外に出てくるのと同じ現象じゃ。蒸発すると葉っぱに水分がなくなって枯れるんじゃよ。
海辺の庭に適した植物
塩害の被害を受けるかもしれないと考えて、積極的にガーデニングに臨めない地域の方も多いでしょう。しかし、塩害に強い植物もあります。そういった植物を選んで植えれば、理想の庭づくりも可能です。
塩害に強い植物
塩生植物
塩生植物とは、塩分濃度の高い土壌でも生育する植物のことです。潮風に強く、根元が海水に浸ったり海水を浴びたりしても問題ありません。マングローブと呼ばれる海岸湿地の樹林などが塩生植物です。
海岸近くが原産の植物
海辺を原産とする植物は、潮風を日常的に浴びる程度は大丈夫です。台風などで海水に晒されると、部分的に葉が枯れることもありますが、回復して新芽が期待できるでしょう。同じ植物でも、内陸で育ったものは海辺で育つ植物より耐潮性はやや弱い傾向があります。
葉が硬い植物・乾燥地域の植物
葉の表皮のしっかりした植物は、葉から水分が蒸発するのを抑えられるため、枯れにくい性質があります。また、乾燥地域が原産の植物も、塩害で葉が枯れることはあっても持ちこたえる可能性が高いといえます。
塩害に強い樹木<防風林・街路樹向き5選>
①クロマツ
学名 | Pinus thunbergii |
科・属名 | マツ科・マツ属 |
原産地 | 日本、朝鮮半島南部 |
樹高 | 15m~40m |
分類 | 針葉樹 |
クロマツは、日本の海岸に自生または古くから植栽されてきた幹が黒褐色の松です。三保の松原などの景勝地はもとより、各地の海岸線に多くみられます。耐潮性があるため防風林のほかに防潮林、防砂林の役割を担い、街路樹にも使われてきました。また、神社仏閣や和風の庭、盆栽にも用いられ、「門かぶり」風に仕立てると粋な塩害に強いシンボルツリーになるでしょう。
②ヤマモモ
学名 | Morella rubra |
科・属名 | ヤマモモ科・ヤマモモ属 |
原産地 | 日本 |
樹高 | 3m~15m |
分類 | 常緑樹 |
ヤマモモは、関東以南の山林に自生する常緑樹です。葉は革質で、花後に直径2cm弱のかわいらしいルビー色の実がなります。新鮮なうちに生食またはジャムなどにできます。痩せ地でも育ち、耐潮性があることから海岸線や都市緑化のために植栽されるようになりました。樹高を低くおさえれば庭木にもできます。
③夾竹桃
学名 | Nerium oleander |
科・属名 | キョウチクトウ科・キョウチクトウ属 |
原産地 | インド |
樹高 | 2m~5m |
分類 | 常緑樹 |
開花時期 | 6月~8月 |
キョウチクトウはインド原産で江戸時代に日本に持ち込まれた樹木です。葉は硬く、夏に白やピンク色の花が咲きます。汚染された空気や乾燥に強く、耐潮性があって回復が早いことから、緑化のために各地で植栽されています。樹液をはじめ花や葉などすべての部分に毒性があるため、注意が必要です。
④カシワ
学名 | Quercus dentata |
科・属名 | ブナ科・コナラ属 |
原産地 | 日本など東アジア |
樹高 | 4m~12m |
分類 | 落葉性高木 |
カシワは、晩秋に黄色く色づいた葉が枯れる落葉樹ですが、春に新芽が出るまで落葉せずに枝に残ります。そのため縁起木として植えられてきました。また、乾燥や潮風に強く、クロマツの育ちにくい北方の海岸線などに防風林として植栽されています。丈夫で大きな葉は、縁に波形のギザギザが入り先端が丸くなっています。高木ですが、適度な高さで芯止めすれば、塩害に強いシンボルツリーにするのも可能です。
ボタニ子
かしわ餅の葉っぱだね!
⑤ナンキンハゼ
学名 | Triadica sebifera |
科・属名 | トウダイグサ科・ナンキンハゼ属 |
原産地 | 中国 |
樹高 | 5m~10m |
分類 | 落葉樹 |
ナンキンハゼは、スペード形の葉の紅葉が美しい、中国原産の落葉樹です。江戸時代には種からロウソクの蝋が採られていました。現在では公園樹や庭木などに植栽されており、さまざまな土壌に適応できる樹木です。ウルシ科のハゼに似ていますが、別の植物のためハゼのようにかぶれることはありません。
塩害に強い樹木<庭木・生垣向き6選>
①イヌツゲ
学名 | Ilex crenata |
科・属名 | モチノキ科・モチノキ属 |
原産地 | 日本や朝鮮半島の南部 |
樹高 | 2m~6m |
分類 | 常緑低木 |
イヌツゲは、ツゲ科のツゲに似ているためイヌツゲと名付けられましたが、近縁種ではなくモチノキ科の別の種類の常緑低木です。刈り込みやすいため、生垣のほか自在なトピアリー(刈り込み樹形)が楽しめます。革質で艶やかな葉は小さくて丸みがあり、耐潮性の強い樹木です。
イヌツゲだけど、「ツゲ」と呼ばれることもありますね。ちいさなまん丸の黒い実がなるのがイヌツゲです。
②マサキ
学名 | Euonymus japonicus |
科・属名 | ニシキギ科・ニシキギ属 |
原産地 | 日本など東アジア |
樹高 | 1.5m~5m |
分類 | 常緑樹 |
マサキは、分厚くて光沢のある葉が一年中楽しめる常緑樹です。刈り込みで樹形を整えやすく、生垣に適しています。耐寒性・耐暑性ともに強く、潮風や大気汚染にも耐性があるため、海の近くはもとよりどの地域にも植えられます。
斑入りの品種もあって、きれいだよ!
③サルスベリ
学名 | Lagerstroemia indica |
科・属名 | ミソハギ科・サルスベリ属 |
原産地 | 中国南部 |
樹高 | 3m~15m |
分類 | 落葉樹 |
開花時期 | 7月~10月 |
サルスベリは、白やピンク色のフリルのような愛らしい花が、夏~秋まで長く咲き続ける花木です。晩秋に葉は枯れるものの、サルも滑りそうなすべすべの幹は存在感があります。耐寒性・耐暑性ともにあり、病気や潮風にも強く、海の近くで庭木にして大丈夫です。矮性の品種もあります。
④オリーブ
学名 | Olea europaea |
科・属名 | モクセイ科・オリーブ属 |
原産地 | 地中海沿岸~小アジア |
樹高 | 2m~5m |
分類 | 常緑樹、果樹 |
オリーブは乾燥に強く、紀元前からギリシャやイタリアなど地中海沿岸で盛んに栽培されています。日本では瀬戸内海の小豆島が産地ですね。細長い葉は硬く、比較的潮風に強い果樹です。波しぶきが直接当たり続ける場所では葉が枯れることがありますが、潮風によるダメージはそれほどありません。
⑤タイザンボク
学名 | Magnolia grandiflora |
科・属名 | モクレン科・モクレン属 |
原産地 | 北米中南部 |
樹高 | 3m~15m |
分類 | 常緑樹 |
開花時期 | 5月~7月 |
タイザンボクは、アメリカ南部が原産のマグノリア(モクレン)の仲間です。大きな白い花が上向きに咲き、大きな葉は分厚く光沢があります。潮風や煙に強く、塩害に強いシンボルツリーとして施設や公園などに植栽されています。庭木にもなりますが、成長が早いため大きくなり過ぎないように適切な剪定が必要です。
⑥トベラ
学名 | Pittosporum tobira |
科・属名 | トベラ科・トベラ属 |
原産地 | 日本など東アジア |
樹高 | 1m~4m |
分類 | 常緑低木 |
開花時期 | 4月~6月 |
トベラは海の近くに自生し、街路や庭に植栽されている常緑低木です。枝の先のほうに光沢のある葉が集り、春に白い花が咲きます。秋に実が熟すると、炸裂して赤い種がこぼれます。葉や枝を切るとチーズのような匂いを放つため、節分に枝を門扉に挿して魔除けに使ったのが、トベラ(扉)の名前の由来です。
ボタニ子
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出典:写真AC