ミツバツツジの概要
ミツバツツジ(三葉躑躅)はツツジ科の落葉低木です。近縁種をまとめてミツバツツジ類と総称することもあります。主に関東地方から近畿地方の太平洋側に分布し、庭木としても用いられてきました。意外と園芸化が進んでいないため、野趣に富んだ樹形と鮮やかな紫がかったピンクの花色を楽しめます。和風と洋風、どちらの庭にも合うところも魅力です。
ミツバツツジの野生種は、主に尾根や岩場、里山の雑木林といった場所に生育していますよ。開花時期には鮮やかな紫の花が一斉に咲く様子が見られます。
その一方で盗掘による被害が多くて、野生の個体数は減少傾向にあるんだよね…。
学名・別名の由来
学名の「Rhododendron」は、ギリシャ語の「rhodon(バラ)」と「dendron(樹木)」を合体させた言葉です。「赤い花を咲かせる樹木」という意味があります。別名の「イチバンツツジ」と「ムラサキツツジ」は、開花時期が通常のツツジと比べて早いことと、鮮やかな紫がかったピンクの花色に由来しています。
ミツバツツジの花色は紫がかったピンクが一般的ですが、赤や白、ピンク色の花をつける品種もあります。
ツツジの花は食べられる?
余談ですが、ヤマツツジなどの野生のツツジの花は食べられます。用途としては、庭木や盆栽が圧倒的に多いツツジですが、食用として楽しむことも可能です。ただし、レンゲツツジ類は有毒種なので食用にはなりません。誤って食べると呼吸困難や麻痺を引き起こすので注意しましょう。
ミツバツツジの基本データ
学名 | Rhododendron dilatatum |
科名 | ツツジ科 |
属名 | ツツジ属 |
形態/園芸用途 | 落葉低木/庭木・花木 |
開花時期 | 4月下旬~5月上旬 |
花色 | 紫がかったピンク色 |
ミツバツツジの特徴
ここからは、ミツバツツジの特徴について紹介しましょう。
特徴その①:枝先の葉は3枚
ミツバツツジの葉のつき方は、枝先に3枚の葉をつけるという独特なものです。「ミツバツツジ(三葉躑躅)」の名前も、この特徴に由来しています。また、若葉には毛が多く生えており、内向きに巻く特徴があります。
特徴その②:開花後に葉が展開する
開花時、または開花後に葉が展開するのも大きな特徴です。そのため花の美しさや清々しい葉色が、よりダイレクトに伝わります。
特徴その③:紅葉する
落葉低木種のミツバツツジは、秋になると紅葉します。オレンジ色、あるいは紫色に染まる紅葉は、秋の風情を感じさせてくれますよ。早春の紫がかったピンク色の花の美しさは圧巻ですが、秋の紅葉の控えめな様子も素晴らしいです。
特徴その④:挿し木が難しい
植物を増やす方法で、最も簡単だと言われている挿し木ですが、ミツバツツジは例外とされています。なぜならミツバツツジは活着率が低いため、挿し木の成功率が低いのです。この点が、庭木として人気が高いにも関わらず、園芸化があまり進んでいない理由の1つと言われています。
ミツバツツジの種類
ここではミツバツツジの種類や品種について紹介します。近縁種も含めミツバツツジ類と呼ばれる植物群は、日本を中心としたアジア東部で約30種類あると言われています。ここでは、その中でもポピュラーな種類を紹介しましょう。
トウゴクミツバツツジ(東国三葉躑躅)
トウゴクミツバツツジは名前が示すように、関東地方や中部地方など東日本の山中に多く見られる品種です。基本種に比べると葉が大きい特徴があります。開花時期は基本種に比べるとやや遅いです。基本種が4月から5月にかけて咲くのに対して、トウゴクミツバツツジは5月中旬から6月上旬にかけて開花します。
サイコクミツバツツジ(西国三葉躑躅)
上記のトウゴクミツバツツジと同じく、サイコクミツバツツジも西日本の産地に多く分布していることから、この名前がつきました。ただし、この品種は新潟県や長野県の山中にも自生しています。葉の付け根部分に毛が生えていることや、雄しべに長短があるといったユニークな特徴があります。開花時期は5月から6月です。
キヨスミミツバツツジ(清澄三葉躑躅)
主に関東地方南部から紀伊半島南部にかけて分布している品種です。名前は千葉県の清澄山に自生していたことに由来しています。外見はサイコクミツバツツジによく似ていますが、比較すると毛が少なく、葉も小さいです。
ダイセンミツバツツジ(大山三葉躑躅)
鳥取県の大山で多く見られることから、「ダイセンミツバツツジ」と命名されました。主な分布地は近畿地方から中国地方です。落葉低木種のミツバツツジの樹高は2mから3mくらいがほとんどですが、この品種は他の品種よりも大きく、4m近くにまで生長します。
トサノミツバツツジ(土佐ノ三葉躑躅)
高知県の旧名「土佐」の名前を持つ品種で、近畿・四国・九州南部に分布しています。名前の由来は、最初に発見された場所が高知県の横倉山だったからです。白い花をつける品種もあり、こちらは「シロバナトサノミツバツツジ」と呼ばれています。
ハヤトミツバツツジ(隼人三葉躑躅)
名前の由来は、薩摩藩(鹿児島県)の武士の美称である「薩摩隼人」からです。この名前が示すように鹿児島県の固有種で、地元では「イワツツジ」と呼ばれています。ミツバツツジの中では最も開花が早く、2月下旬から3月に咲き始めます。
ハヤトミツバツツジは野生種が減少していることから、鹿児島県の希少野生動植物に指定されているんだ。
コバノミツバツツジ(小葉ノ三葉躑躅)
中部地方以西から九州地方にかけて分布している品種です。他のミツバツツジに比べて葉が小さいことから、この名前がつきました。開花時期は3月から4月です。
元の助(モトノスケ)
ミツバツツジ類とヤマツツジ類との交雑によって誕生した園芸品種です。春と秋の年2回開花する性質から、「四季咲きミツバツツジ」とも呼ばれています。低木種のミツバツツジの中でも樹高が低く、1mほどにしか生長しません。
ミツバツツジとその他のツツジとの違い
ツツジは古くから日本に自生し、自然交雑や品種改良で生まれた種類も多い植物です。そのため専門家でも判断に迷うほどよく似た品種も珍しくありません。ここではミツバツツジに似ていると言われている品種と、その違いについて紹介します。
ミツバツツジ本種とその他の種類との違い
ミツバツツジの基本種と、上記で紹介したその他のミツバツツジ類は非常によく似ていますが、違いはあります。それは雄しべの数です。基本種は5本ですが、その他のミツバツツジ類の雄しべは10本あります。
ミツバツツジとムラサキツツジとの違い
前に触れたように、ムラサキツツジはミツバツツジの別名の1つです。同じ植物なので違いなどはありません。
ミツバツツジとミヤマツツジとの違い
ミヤマツツジ(深山躑躅)は正式名称をムラサキヤシオツツジ(紫八汐躑躅)という落葉低木です。鮮やかな紫色の花など見た目は確かによく似ていますが、開花時期や生息地など、違う点も多くあります。開花時期はミツバツツジが4月から5月、ミヤマツツジが5月から7月とミツバツツジのほうが早いです。生息地もミツバツツジが関東以西の尾根や岩場なのに対して、ミヤマツツジは北海道から東北地方や中部地方の日本海側の山地の林縁と、かなり条件が異なっています。
最大の違いは葉のつけ方
最大の違いは葉の数でしょう。開花時かその後に葉が展開するのは同じですが、ミツバツツジは枝先に3枚の葉をつけるのに対して、ミヤマツツジは枝先に5枚の葉をつけます。
ミヤマツツジの基本データ
学名 | Rhododendron albrechtii |
科名 | ツツジ科 |
属名 | ツツジ属 |
和名 | ムラサキヤシオツツジ(紫八汐躑躅) |
別名 | ミヤマツツジ(深山躑躅)、ムラサキヤシオ(紫八汐) |
開花時期 | 5月~7月 |
樹高 | 2m前後 |
用途 | 鉢植え・庭木 |
花色 | 紅紫色 |
まとめ
美しい紫色の花が魅力的なミツバツツジは、種類が多いこともあって、日本ではほとんどの地域で見ることができます。開花時期を迎えたら、たくさん咲いている場所へ足を運んでみてはいかがでしょうか。鮮やかな紫色の洪水は、きっとあなたを素敵な気分にしてくれるでしょう。
出典:写真AC