ヒサカキとは?
いったいヒサカキとは、どんな植物なのでしょうか?神棚や仏壇にお供えしたりと宗教的な印象の強いヒサカキですが、榊(サカキ)との違いがいまいちわからないという方も多いのではないでしょうか。まずはじめに、ヒサカキがどんな植物なのかをざっくりとご紹介します。
ヒサカキの基本情報
ヒサカキはツバキ科(ペンタフィラクス科)・ヒサカキ属に分類される、高さ3~8mの低木の常緑樹です。葉は小ぶりで、縁に鋸歯(きょし)があるのが特徴です。(鋸歯とは、のこぎりの歯のようなギザギザの切れ込みのことです。)花の季節は3~4月で、クリーム色の小さな花がたくさん咲き、11月ごろには黒い実をつけます。
幅広い生息地
北海道・青森・秋田・岩手を除く本州から沖縄の、比較的暖かい地域に幅広く分布しています。中国、朝鮮半島、台湾なども原産地です。林内の日陰や低木層によく見られますが、直射日光にも強く、尾根や海岸沿いなどにも生息しています。あまり目立ちませんが、実はほとんどの森で見られる植物です。
樹木の高さ
樹木の高さは、だいたい3~8mです。成長が遅くあまり大きくならないので、生垣や庭木としてよく使われています。生け垣などに植栽されたものは、2~3mほどの高さで仕立てられることが多いです。自生している大きなものでは、高さ10mにもなる巨木もあります。
適応能力が高く育てやすい
ヒサカキは耐寒性、耐暑性、耐陰性が高いので、生育環境を選ばないという特徴があり、とても丈夫で育てやすい樹木です。適湿を好むため半日陰が好ましいのですが、適応能力が高いため、日当たりの良い場所から日陰までよく育ちます。北海道・青森・岩手・秋田以外であれは、比較的簡単に育てることができます。
雄花・雌花・両性花の謎
ヒサカキの性表現については、まだよくわかっていないようです。雌雄異株と記されていることがありますが、実際は雄花と雌花の他に両性花をつける株もあります。その仕組みは現在まだ解明されておらず、伐採や山火事で性転換することも知られており、まだまだ謎の植物です。
ヒサカキの名前の由来
次に、名前の由来をみていきましょう。ヒサカキと榊の違いがわからなくなってしまう理由は、その名前にあります。「榊」といえば、「榊(サカキ)=本榊(ホンサカキ)」と「ヒサカキ」の両方を指すからです。なぜそのようなことになったのでしょうか?まずは、ヒサカキの由来の元となる「榊」の由来からご紹介します。
榊の名前の由来
そもそも「榊」という言葉は何を意味するのでしょうか?「榊」という文字には、漢字の成立ちからわかるとおり、神の降りる樹木という意味があり、古くから神事に利用されてきました。神様にお供えする植物が「榊」とよばれ、地域によってはヒサカキをはじめ、オガタマノキや若松であり、「榊」とよばれる植物は土地によって様々だったのです。
西日本は「本榊」東日本は「ヒサカキ」
そして時は流れ、現在は「榊」といえば「榊=本榊」と「ヒサカキ」を指すようになりました。西日本の人が「榊」といえば「本榊」のことですが、関東より北で「榊」といえば「ヒサカキ」を指すということが起こります。なぜなら、本榊が生育しない北海道から関東では、「ヒサカキ」のことを「榊」とよび、本榊の代用として利用してきたからです。
本榊・真榊(マサカキ)の名前の由来
しかし流通が発達し、全国どこでも榊が手に入るようになると、北海道から関東では「榊」とよばれる植物が二つになり混乱します。榊が「本榊」や「真榊」ともよばれるようになった由来は、それらを区別するためだといわれています。
ヒサカキの名前の由来
では、ヒサカキの名前の由来はいったいどこから来ているのでしょうか?基本的には榊から来ているようですが、諸説あります。「非サカキ」「姫サカキ」「緋サカキ」「比サカキ」「実サカキ」など、たくさんのいわれがあります。
非サカキ・姫サカキ
昔の京都を中心とした考え方では、榊といえば本榊で、ヒサカキは榊に似ているが榊ではないということで、榊に非ず(あらず)で「非サカキ」となった、という説があります。また、ヒサカキの葉は榊より小さいので、その様子を姫(ヒメ)とたとえ「姫榊(ヒメサカキ)」となり、短縮され「ヒサカキ」になったという説もあります。(屋久島にはヒメヒサカキという固有種もあります。)
緋サカキ・比サカキ・実サカキ
他にも名前の由来はいくつかあります。新芽と若葉が赤味を帯びるので、緋色(ひいろ)から「緋サカキ」になったという説や、ヒサカキに似ているので「比サカキ」になったという説です。また、ヒサカキは実をたくさん付けるので「実サカキ」から少しなまって、ヒサカキとなったといった説もあり、ヒサカキにはたくさんの名前の由来があります。
ヒサカキの別名
ヒサカキは地域によって様々な別名があります。「ビシャコ」「ビシャ」「ヘンダラ」「ササキ」「シャシャキ」「シャカキ」「イヌサカキ」「アクシバ」「コウヤシナシバ」「ハカシ」「下草」「仏さん柴(しば)」「栄柴(サカシバ)」などです。たくさんの別名があるのは、昔から人々の生活に密着していたからだといえるでしょう。
次のページでは、ヒサカキの特徴と種類、榊との見分け方を紹介します。
ヒサカキの特徴
ヒサカキは、開花の季節や実りの季節も他の植物と少しずれているため、繁殖力も優れています。日本各地に分布しているだけあり、とても生命力の強い植物だといえるでしょう。特に目立った特徴はない地味な見た目のヒサカキですが、詳しく見てみると独特の個性を持った植物です。
葉の特徴
葉の大きさは、長さ3~7cmで幅1.5~3cm程度。葉は厚みとつやがあり美しく、先端は少しくぼみがあることが多いです。縁には鋸歯が付いているのが特徴です。鋸歯は鈍く、たくさんついています。葉は、枝の左右に交互に付くので、平面的になります。
花の特徴
花は早春の3~4月、まだ他の花の少ない季節に開花するので、虫たちが盛んに受粉します。萼はまるく紫色です。花の季節になると、枝の下側に直径2.5~5mmほどの大きさの、小さなかわいい花をたくさん咲かせます。白やクリーム色の花が多いですが、たまにピンクや紫の花もあり、株によって色や形は様々です。近くで見ると、とてもかわいいです。
雄花と雌花と両性花
花の種類は「雄花」「雌花」「両性花」の三種類あります。
- 「雄花」:雄しべが10数本あり、退化した雌しべをつける
- 「雌花」:雌しべ1つと、退化した雄しべをもつ
- 「両性花」:雄しべも雌しべもつける
独特の匂い
ヒサカキの花は見た目は小さくてかわいらしいのですが、臭いが強烈という特徴もあります。甘く優しい花の香りとは全く違う、強い独特の香りがします。花の季節になると、たくあんの匂い、プロパンガスの匂い、アンモニア臭などという人もいます。「臭い」といわれるのもヒサカキの特徴といえます。
実の特徴
春に花が咲いた後、夏からゆっくりと小さな黄緑色の実を付け、9月ごろから黒く色付きはじめます。そして10月~2月の秋から冬にかけて、枝の下に黒い実をたくさん付けます。熟した黒紫色の丸い実の大きさは直径5mmほどです。葉の下に隠れるように実がついていますが、水分が多い実で、他の果実の少ない季節に実を付けるため、小鳥たちがよく食べに来るようです。
出典:写真AC