クサギとは
クサギは、林道の脇や駐車場の隅などでも、いつの間にか生えている身近な樹木です。秋になると、画像のように非常に色鮮やかで印象的な実をたくさんつけます。少し気をつけてみると、意外に身近な場所に生えているのを発見するかもしれません。クサギはとても興味深い植物です。その秘密をまとめました。
クサギの特徴
クサギとはどのような植物なのでしょうか。クサギを見つけるためには、樹高や葉の形、どんな季節にどんな花を咲かせるのか、どんな実を実をつけるのかが手掛かりになります。クサギの基本的な特徴をまとめました。
クサギの樹高や樹形の特徴
クサギは樹高2~6mの落葉小高木です。樹皮は暗灰色~灰褐色で、縦に割れ目のような模様があります。樹形は整っておらず、枝は横に広がり、全体的には横広の樹形になることが多いです。
クサギの葉の特徴
葉はスペード型でやわらかい毛がある
葉は長さ8~15cmでやわらかく、対生に付きます。長い葉柄にさかさまのハートに近い形の葉がついて、全体的にスペードのようにも見える形です。縁の浅いギザギザには個体差があり、はっきり出る場合と出ない場合があります。葉脈の上には表にも裏にもやわらかい毛があり、手触りがふさふさしているのも特徴です。葉は冬に落葉し、芽吹きの季節になると赤みを帯びて軟毛が密生した新芽がでてきます。
枝や葉の匂いが臭い!?
枝や葉には強い匂いがあり、枝を折ったり、葉を軽く手で触ったりするだけでも匂います。「臭い木」ということから、「臭木(クサギ)」という不名誉な名前をつけられたのです。
臭いと感じるかどうかは個人差がある
しかし、臭いと感じるかどうかは人それぞれです。その匂いはカメムシのようだとも、ビタミンB類の錠剤のようだとも表現されます。人によってはピーナツバターのような匂いだという人もいるのです。傾向としては、男性はこの匂いを苦手とし、女性は平気なことが多いといいます。クサギを見かけたら、ぜひ匂いを嗅いでみましょう。
クサギの花の特徴・開花時期
クサギの花は白く美しく、芳香がある
クサギの開花時期は8~9月です。直径2~2.5cmの花は筒形で、先端が大きく裂けて平らに開きます。花弁は白で、筒の部分は紅桃色の花が房状にたくさんつくので華やかです。クサギの花には、昼間はアゲハチョウなどの大型のチョウ、夜はスズメガの仲間が蜜を吸いに訪れます。虫たちが受粉を助けているのです。花には甘い紅茶やジャスミンのような芳香がありますが、この匂いを好きだと感じない人もいます。
自家受粉しない工夫がある
クサギは両性花で、花から雄しべ4本と雌しべが突き出しています。しかしこの花には、成熟時期をずらし、自家受粉をしない工夫があるのです。開花すると雄しべの方が先に成熟して花粉をまき散らします。その時にはその花の雌しべはまだ未熟です。雄しべがしおれてから雌しべが成熟して受粉可能な状態になり、他の花からの花粉をつけることができるようになります。丈夫な子孫を残すための工夫です。
クサギの実の特徴
クサギの結実期は10~11月です。開花時期には紫を帯びた緑色だったがくの部分が、秋には赤色に染まります。その中心に実る球形の実は藍色なので、とても美しく印象的です。この色彩は、果実を食べて種子を運んでくれる鳥たちへのアピールだといわれています。
クサギの生息地・増え方
クサギはどのような場所に分布し、どのような場所を好んで育つのでしょうか。また、どのようにして子孫を残すのかも気になります。クサギの生息地や増え方をまとめました。
北海道から九州・沖縄まで分布
クサギは北海道から九州・沖縄まで広く分布します。国外の生息地は、朝鮮や台湾、中国などです。四国以南では画像のようなショウロウクサギが多くなっていきます。普通のクサギとの違いは、葉が長くなり、花序がよりまとまっているところです。沖縄ではほとんどがショウロウクサギだといいます。クサギは、山野の日当たりのよい場所に自生する、生命力の強い植物です。
鳥によって子孫を増やす
クサギの実は鳥に食べられて、種はフンと一緒にばらまかれます。植えてもいないのにいつの間にか生えてくるのは、鳥が散布しているからです。クサギの実を食べる鳥には、ヤマガラやキジバト、ヒヨドリやムクドリなどがいます。
クサギは先駆植物(パイオニア)
先駆植物とは裸の土地に最初に生える植物
クサギは遷移(せんい)における典型的な先駆植物(パイオニア)だといわれています。遷移とは、ある場所において時間の経過とともに、生息する植物の種類が次々に変わっていく現象のことです。草木が一本もないような場所に一番初めに生えてくるのが先駆植物(パイオニア)と呼ばれる植物です。地衣類やコケ類が先駆植物の代表で、乾燥や貧栄養に耐えて一年草植物たちが生きられる環境を準備してくれます。
クサギは樹木の中の先駆植物
その後その土地は、いきなり森になるわけではなく、藪(やぶ)の状態になります。そのような場所に最初に侵入する樹木の一つがクサギなのです。クサギは樹木が生きにくい環境でもたくましく育ち、後から生えてくる樹木の先駆けとなります。
クサギの花言葉や歴史
「臭木」と呼ばれて嫌われているのかと思われるクサギですが、花言葉はあるのでしょうか。また、昔の日本人にとってどのような樹木だったのでしょうか。クサギの花言葉や歴史についてまとめます。
クサギの花言葉
クサギの花言葉は「運命」です。これはクサギの学名「Clerodendron trichotomum」からきています。属名の「Clerodendron」の語源がギリシャ語の「cleros(運命)」と「dendron(樹木)」だからです。クサギには「治療」という花言葉もあります。
クサギは万葉集の時代にも身近な存在だった
クサギは万葉の時代から身近な存在でした。新嘗祭(にいなめさい)には古来から、白酒(しろき)と黒酒(くろき)を神に捧げて五穀豊穣を祈ります。白酒とは、新米で作った白濁した酒です。黒酒は白酒にクサギの木の灰を加えた黒灰色の酒になります。日本人にとってクサギは大切な樹木だったのです。
ボタニ子
次項では、クサギの分類の謎や、利用方法についてご紹介します。臭いクサギに利用法はあるのでしょうか。
出典:写真AC