カクレミノとは
ウコギ科カクレミノ属の落葉小高木
カクレミノ(隠蓑)とは、ウコギ科カクレミノ属の常緑小高木です。別名をミツデ、カラミツデ、テングノウチワ、ミツナガシワ(御綱柏)、ミツノカシワ(三角柏)、ミソブタなどともいいます。
学名はDendropanax trifidusです。Dendropanaxはギリシア語で樹木を意味するdendronと、ウコギ科トチバニンジン属(Panax)に似ていることからきています。トチバニンジン属(Panax)の代表はオタネニンジン(朝鮮人参)で、「Panax」はギリシャ語で「すべてを癒す」という意味です。
カクレミノの名前の由来
日本昔話に由来
カクレミノの名前は、日本昔話『天狗の隠れ蓑(かくれみの)』に由来します。主人公は元気で知恵のある男の子です。天狗を相手に、ただの竹筒を「遠眼鏡(とおめがね)」だと偽って、宝物である隠れ蓑と交換させます。しかし、汚い蓑がそんな宝物だとは知らない母親が、囲炉裏(いろり)で燃やしてしまいました。
がっかりする男の子ですが、裸になって身体に囲炉裏の灰を塗ってみると、姿が消えるではありませんか。男の子はその姿で村に行き、団子を盗み食いしました。しかし「うまい!」と舌なめずりをして、口の周りの灰が取れてしまいます。周囲の人はびっくり!口だけのお化けが団子を吸い込んでいくのですから。村人に「化け物め!」と追いかけられて川に落ち、素っ裸で人目にさらされてしまったのでした。
3裂する葉が蓑に似ている
この話は、主人公をとんちで有名な彦一とするパターンや、主人公が大人の男でただ酒を飲んだというパターンもあります。共通するのは、天狗から隠れ蓑をだまし取り、欲を張って恥をかく点です。昔の人はカクレミノの葉の形を、この昔話に出てくる天狗の隠れ蓑に見立てたのだといいます。なるほど、3つに分裂する大きめの葉は、蓑の形に似ているかもしれません。
カクレミノの分布
カクレミノの原産地は日本や東アジアです。日本では、東北南部以南から四国、九州、沖縄に分布しています。湿り気のある照葉樹林内や海岸近くによく見られる樹木です。近縁種として、韓国に自生するチョウセンカクレミノや、台湾のタイワンカクレミノがあります。
カクレミノはヤツデと同じ種類?
ヤツデもカクレミノも別名が「テングノウチワ」
カクレミノとよく対比される植物にヤツデがあります。ヤツデもカクレミノと同じ種類でウコギ科の常緑低木ですが、ヤツデ属です。カクレミノとヤツデには類似点があります。ヤツデは7裂または9裂した大きな葉をつけます。これが天狗の団扇に似ていることから「テングノウチワ」と呼ばれるのです。一方カクレミノも、5裂の葉(後述)は天狗の団扇にそっくりで「テングノウチワ」の別名を持っています。
花や実の付き方や色は似ているが季節が違う
また、小さい花が球形にまとまった花序をつけることも似ています。ただし花期は、隠れ蓑が7月~8月であるのに対し、ヤツデは晩秋です。実が球形で紫黒色に熟す点も類似しています。しかし、カクレミノが秋に熟すのに対して、ヤツデは春が結実期です。更に植え付け適地も似ています。カクレミノもヤツデも日陰でも育つ丈夫な植物として知られています。
カクレミノの花言葉
カクレミノの花言葉は「ずる賢い」「耐え忍ぶ」です。「ずる賢い」は、知恵を使って天狗から隠れ蓑を奪い取った昔話に由来しています。また「耐え忍ぶ」は、他の植物が育たないような日陰でも成長することからつけられたものです。
カクレミノの特徴
カクレミノは、古くから日本人の身近にあった植物ですが、華やかさはないのであまり知らない方も多いかもしれません。今度はカクレミノの特徴をご紹介しましょう。
樹高などの特徴
樹高は2~10mですが、庭では1~2m程度の高さに仕立てることが多いです。幹はまっすぐに伸び、上部に葉がまとまる樹形になります。樹皮は灰白色で滑らかで、丸い小さな皮目があることが特徴です。
葉の特徴
成長にしたがって葉の形が変わる
カクレミノの葉は濃い緑色で光沢があり、枝先に互生します。葉の大きさは6~12cmで、厚くしなやかです。縁はなめらかで少し波打ち、はっきりした葉脈が3本あります。表も裏も毛はありません。特筆すべきは、カクレミノの葉が木の年齢やついている位置によって形が変わるという点です。芽を出したばかりの苗の葉は不分裂ですが、幼木の葉は3~5の分裂葉が多く、成長すると不分裂葉が多くなります。
光を多く受けるために葉の形を変える
葉の形が変化する理由は、葉にできるだけ光を受けるためだそうです。背が低いうちは葉に切れ込みがあった方が、下の葉にも光が当たりやすくなります。成長して高さを得てからは、大きさのある葉の方が光を受けるのに有利なので、分裂せずに楕円形になるといわれているのです。不分裂葉が多くなるくらいの大きさに成長すると、花や実をつけるようになります。
葉の位置によって葉の形や葉柄の長さが違う
また、葉がついている場所によっても、葉の形や葉柄の長さが変わるといいます。高い位置の葉は切れ込みが浅く、葉柄が短いです。低い位置の葉は切れ込みが深く、葉柄が長くなっています。葉が下に下がりやすい性質があり、その時に葉が重なり合わず、全ての葉に効率よく光を浴びることができるのです。1株の中にこれだけ色々な形の葉がある樹木は多くありません。
紅葉や黄葉が見られる
葉は秋に紅葉します。暖かい地域では美しい紅葉というわけにはいきませんが、趣があります。葉の寿命は1年6か月ほどで、古くなった葉は2年目の秋に鮮やかな黄色になって落葉することも特徴です。しかし常緑樹なので、冬にすべての葉が一斉に落葉することはありません。
花の特徴
花は幼木のうちはつかない
カクレミノは、分裂葉が多い幼木のうちは花や実がつきません。不分裂葉が多くなる大きさにまで成長すると、花や実をつけるようになるのです。花の季節は7月~8月ですが、温暖な地域では11月頃まで開花します。少しずつ長い期間咲くので、画像のように花と実が混在する姿が見られるのです。
花は目立たない
枝先に伸びた4~7cmの花枝の先に、小さな花が15~40個球状に集まって咲きます。一つ一つの花の大きさは直径5mmほどで、黄緑色~クリーム色です。花びらは5枚で星形のようにも見え、かわいいですが観賞用としてはあまり評価されません。両性花がつく花序と、両性花と雄花が混じっている花序があります。雄しべは5本です。両性花は花の時期から下に大きな子房をつけており、花柱は4~5裂します。
実の特徴
カクレミノの実りの季節は10月~11月です。実の大きさは1cmくらいの広楕円形で、先端に花柱が残ります。熟すと紫黒色になる液果です。実の中には6~8mmほどの大きさの、ゆがんだ長楕円形の種が2~5個入っています。カクレミノの実は、ヒヨドリやツグミなどの野鳥が大好きな食べ物です。
カクレミノの種類
カクレミノは、蓑の形をした分裂葉がある幼木のうちの方が価値があるとされます。不分裂葉が多い成木は、マルミツデと呼ばれて区別されることがあります。また、園芸品種としてフイリカクレミノ(斑入りカクレミノ)がありますが、江戸期以来流通はしていないという情報もあります。黄白色の斑の入り方には、葉の中ほどが白いタイプや、葉の縁の方が白いタイプなどがあるようです。
出典:筆者撮影