はじめに
みなさんはシキミ(樒)という樹木をご存知でしょうか?「シキミ」と言われても、ピンと来ない方もいるかもしれませんが、日本では古くより仏事などの用途に用いられてきました。今回は、シキミの特徴や毒性、なぜ仏事に用いられるようになったのか、仏事以外の用途や歴史、言い伝えなどをわかりやすく解説します。まずは、シキミの概要や特徴についてご紹介します。
シキミ(樒)の概要・特徴
名 | シキミ(樒) | 科名 | マツブサ科シキミ属 |
形態 | 常緑広葉樹 | 学名 | lllicium anisatum |
樹高 | 2m~10mほど | 原産地 | 日本 |
耐寒性 | 弱い | 耐暑性 | 普通 |
開花期 | 3月~4月ごろ | 花の色 | 乳白色、薄黄色など |
シキミは日本原産の常緑広葉樹です。樹高はさまざまで、2mほどのものから大きいもので10mほどに成長するものもあります。寒さにやや弱いですが、日陰でもよく育ちます。やや厚みのある葉や樹皮が芳香します。学名である「lllicium anisatum(イリシウム アニサタム)」はラテン語ですが、「lllicium」は、同じラテン語の「illicio=引き寄せる」という意味が語源で、芳香が強いシキミにはピッタリな学名ですね。
ボタニ子
シキミって、寒さに弱いんだね!芳香するっていうけど、どんな香りがするんだろう?
ボタ爺
シキミは樹皮や葉から芳香するんじゃよ。お線香のような香りがするんじゃ。
シキミの概要・特徴ポイント
- 寒さに弱いが日陰でもよく育つ
- 春に花が咲く
- 葉や樹皮が芳香する
- 学名も、芳香する特徴から由来する
シキミ(樒)の花の特徴・花言葉
シキミは3月~4月ごろになると、直径3cmほどの大きさで、10枚~20枚のひらひらした花びらが特徴の花を咲かせます。花色はクリーム色や乳白色をしていて、花びらがひらひらと垂れ下がって咲くため、可憐でかわいらしい印象を与えます。樹皮や葉は芳香しますが、花自体に強い香りはありません。シキミの花言葉は「猛毒」「甘い誘惑」「援助」です。
ボタニ子
花はなんだか、かわいいしきれいだね!ひらひらしてて特徴的な形!
ボタ爺
後で紹介するが、品種によって花色もいろいろあるんじゃぞ。花言葉の「猛毒」…うむ、納得じゃ。
シキミ(樒)のさまざまな呼び名
ボタニ子
シキミって、変換するといろんな漢字があるんだけど、同じものなのかな?
ボタ爺
シキミには実に多くの呼び名、別名があるのじゃ。たくさんある中の一部をリストにしてみたぞい!
漢字 | 備考 | 漢字 | 備考 |
樒 | 読み方:シキミ | 梻 | 読み方:シキミ |
之伎美 | 読み方:シキミ | 之木美 | 読み方:シキミ |
櫁 | 読み方:シキビ シキミの別称 |
嬥 | 読み方:シキビ シキミの別称 |
花木 | 読み方:ハナノキ シキミの別称 |
花芝 | 読み方:ハナシバ シキミの別称 |
花榊 | 読み方:ハナサカキ シキミの別称 |
墓芝 | 読み方:ハカシバ シキミの別称 |
仏前草 | 読み方:ブツゼンソウ シキミの別称 |
多香木 | 読み方:タコウボク シキミの別称 |
ボタニ子
すごい量だね!読み方も漢字も違っても同じシキミを指してるってこと!?
ボタ爺
そういうことじゃよ。芳香が強いシキミを「多香木」と表現したり、特徴をとらえているものも多いんじゃ。シキビの表記で売られていることも多いんじゃよ。
シキミの呼び名
- シキミは「シキビ」として売られていることもある
- 名前や漢字が違うが、同じ「シキミ」を指している
ボタニ子
次はシキミの名前の由来を紹介するよ!
シキミ(樒)の名の由来
シキミは芳香が強く、クリーム色のきれいな花が咲きますが、葉、根、樹皮、花や実まですべての部分が有毒の樹木です。とくに「実」の部分の毒性は強く、古くから恐れられていました。そして「悪しき実(あしきみ)」と言われるようになり、時間の経過とともにやがて「あしきみ」の「あ」が省かれ「シキミ」として定着したといわれている説と、「悪しき実」がなまって「シキミ」になったという説があります。
ボタニ子
全部に毒が含まれているの!?悪しき実って呼ばれるほど恐れられていたんだね。
ボタ爺
そうなんじゃよ。どこの部分にも毒があるから、注意が必要なんじゃ。
シキミの名の由来のポイント
- 悪しき実→しきみと、変化し定着した
- 実の毒性は古くから恐れられていた
シキミ(樒)の毒性
シキミには、猛毒である「アニサチン」という成分が含まれています。特に「実(種子)」の部分には強い有毒成分が含まれており、「毒物及び劇物取締法」の劇物に指定されています。ただし、この毒性は「食べる」ことで発揮され、食べなければ人体に影響はありません。シキミを食べると、嘔吐や腹痛、下痢などの症状のほか、重篤化すると意識障害を起こしたり、最悪の場合は死に至ることもあります。シキミは間違っても口にしないように気をつけましょう。
毒物及び劇物指定令(昭和40年政令第2号)第2条第1項第39号「しきみの実」
ボタニ子
アニサチンってなんだろう?あまり聞かない成分だよね。シキミが近くにあっても危険はないんだよね?最悪の場合死に至るって聞くと、怖いね。
ボタ爺
アニサチンは猛毒成分なんじゃよ。シキミはあくまで「食べる」ことで毒性を発揮するんじゃから、近くにいたからといって中毒は起きんぞ!劇物指定されているくらいじゃから、実だけでなく葉や花も食べてはいかんぞ!
よく似た「八角」と間違えないで!
「八角(はっかく)」は、「スターアニス」という名前のスパイスとしてもおなじみですが、中国原産の「トウシキミ」というシキミの仲間である樹木の果実を乾燥させたものです。独自の香りがあるため好き嫌いが分かれるスパイスですが、魚や肉の生臭さを消してくれる効果もあるため、中国料理ではよく用いられます。この八角とシキミの実は非常によく似ていますが、見分け方は果実の大きさであったり、香りで判断します。また、トウシキミは日本に自生していることはなく、管理された温室で栽培されています。
ボタニ子
写真で見ると、よく似てる…シキミの実も、茶色になるものね。見分け方はどうすればいい?
ボタ爺
見分け方じゃが、実の大きさは八角の方がやや大きいぞ。そして香りは八角は甘めの香りじゃが、シキミはツンとした抹香のような香りなんじゃ!
ボタニ子
なるほど!簡単な見分け方は「香り」がキーポイントだね!
ボタ爺
そうじゃな!余談じゃが、トウシキミに実る八角はインフルエンザの薬の原料にもなるんじゃぞ。八角は市販品を購入すれば安心じゃな。
八角とシキミの見分け方
- 実の大きさはやや八角が大きめ
- 八角は甘い香り、シキミはツンとした香り。香りでの見分け方がわかりやすい
- 日本で自生していることはまずない
ボタ爺
次は、なぜ仏事にシキミが使われるようになったのかを解説するぞ!
シキミ(樒)はなぜ仏事に使われるのか
シキミが日本で仏事に使われるようになったのは、まだ遺体を土葬していた時代にさかのぼります。土葬された遺体は、獣などに狙われることが多く、墓を掘り返されてしまうことも多かったようです。そこで当時の人々はシキミの独特の芳香や毒性で獣がおびえ寄ってこないだろうと考え、シキミの枝を植えられたことが始まりといわれています。シキミの強い芳香は死臭を消し、魔除けの効果があるとされていました。その名残で、火葬をする現代でも仏事に用いられています。
ボタニ子
あぁ、そうか、昔は土葬が一般的だったんだよね。香りが強いからシキミを使ってたんだね。
ボタ爺
そうなんじゃよ。埋葬したあとに植えることが一般的じゃった時代の名残で、なんとなく「不吉」なイメージを持たれることもあるんじゃ。実際は、日本で自生する樹木で芳香するものは少なかったからじゃろうな。
ボタニ子
そう考えると、シキミって歴史が古い…?
ボタ爺
そうじゃなぁ、古い文化じゃな。少しおさらいしておくかのう。
仏事に使われる理由
- 死臭を消す効果があったといわれる
- 獣が墓荒らしをするのを防ぐために植えられた
- 自生する樹木で芳香するものは少なく、シキミは芳香するため用いられるようになった
出典:写真AC