イヌマキとは
イヌマキとは日本や台湾などに分布する常緑樹です。イヌマキのマキは「真木」と書き、スギやヒノキなどまっすぐに伸びる植物をあらわす言葉でした。千葉県の県木で、日本での分布は関東以南の山です。庭木や防風林、垣根などに利用され、沖縄では「チャーギ」と呼ばれます。雌雄異株ですが、苗のときには見分けがつきません。
ボタニ子
基本情報
形態 | 常緑針葉高木 |
学名 | podocarpus macrophyllus |
科属 | マキ科マキ属 |
樹高 | 3m~20m |
英名 | buddhist pine |
別名 | マキ、クサマキ、ホンマキ、ニンギョノキ |
分布 | 日本、台湾、中国 |
利用方法 | 庭木、防風林、屋敷林、棺、桶、屋根板 |
花言葉 | 慈愛、色あせぬ恋 |
特徴
イヌマキは関東以南~沖縄で自生し、暖かい海岸沿いの山地に多く生えています。庭木や垣根に利用されることの多い木ですが、自生して自然の状態で育つと高さが20mを超え、幹の直径も1m以上になる大きな木です。幹は幼いうちはまっすぐですが大木になるとタオルをしぼったようにねじれます。
木
イヌマキの木はとても丈夫な植物で、ほとんど病害虫の心配がありません。潮風や大気汚染にも強く育つので、樹木は家や畑の防風林や垣根、屋敷林として利用されます。木の部分は水や湿度、白アリなどにも強いので、屋根の板や桶、棺など経年劣化しないほうがよいものに使われます。垣根として利用する際はあるていど刈り込むので、実がなりづらいでしょう。
葉
イヌマキの葉は長さが10cm~18cm、幅は1cmくらいです。先の丸い細い針状で互い違いに生える互生で密です。表面は光沢のある深緑色ですが、裏は薄い緑で葉脈がふくれています。昔は葉を4枚組み合わせて手裏剣を作り遊ばれていました。雌雄異株ですが、どちらも葉は同じなので見分けがつきません。
花
イヌマキは雌雄異株の植物なので、雄株と雌株では花が違います。雄花は蕾のうちは、先の丸いヤングコーンのような形をしていますが、咲くと稲のようです。雌花は葉の根本に球体をつけた棒状に出て、その根本に花粉を受け取るめしべが2本出ます。球体が受粉するように見えますが、この部分は後に種になります。開花時期は5月~6月です。
実
イヌマキの実は熟すと赤や紫色に変化する部分と、ぶどうのような白い粉をかぶった緑色の丸い部分の2つからなります。大きさは1.5cmくらいです。緑色の部分は種で、赤い部分は花托(かたく)と呼ばれる器官で本当は実ではありません。ほかにも「花床(かしょう)」「果托(かたく)」「果庄(かしょう)」などと呼ばれます。緑色の部分と赤い部分は、維管束という軸でつながれていてすぐにははずれません。
種子
イヌマキの種子は、赤い花托と緑の種子が串団子状になった先端の緑色の部分です。トリや人間に赤い花托を食べられることで種子が落下し、増えていきます。イヌマキの種子は、木になったままの状態で発芽することもある胎生種子です。胎生種子は芽や根が出たものなので、正確にはすでに種でははく散布体や胎生芽と呼ばれます。まれに、1つの花托に種子が2つついているものもあります。
実の収穫時期
イヌマキの実の結実は9月下旬~10月で本州では10月~12月に熟し収穫できますが、チャーギと呼ぶ沖縄では5月~6月に結実し、6月~8月に熟して収穫時期を迎えます。収穫する目安は赤い実が紫色になったらです。イヌマキの実を収穫せずに放置すると、赤い実の部分がしぼんでしまいます。
イヌマキの実は食べられる?
イヌマキの実は食べられる部分と食べられない部分があります。赤い花托は紫色に熟したら食べられますが、緑色の種子は有毒のため、食べられません。イヌマキの花托は黄~赤、紫、深紫に変化します。緑色の部分は熟してもほぼ変化しません。
イヌマキの実はどんな味?
イヌマキの実はじつのところものすごくおいしい果実というわけではありません。ほんのり甘酸っぱい、自然のおやつといったところです。イヌマキの実は「森のグミ」といわれます。食べられる花托部分は、赤いうちは熟しが足りず渋いです。未熟なうちは松脂の匂いがしますが、黒紫色に完熟すると甘味が出ます。食感はねっとりとしたぬめり感があります。
ボタニ子
皮はごくうすく、そのままの食べ方ても気にならないていどで、とてもおいしいというほどでもなく、まずいというほどでもないわ。甘味がうすいのね。
おすすめの食べ方
イヌマキの実は収穫したら緑の種子と完熟して紫になった花托をわけます。花托の中に種子からのびた維管束という軸が刺さっているので、ねじとる感じで除去します。そのまま食べるときはよく洗ってください。ほかの食べ方は干してドライイヌマキの実にして、アイスクリームにのせたり、クッキー生地にまぜこんで焼いたりしてもよいでしょう。
イヌマキ酒
<材料>(猪口1杯1人分)
- イヌマキの実:200g
- 氷砂糖:100g
- ホワイトリカー:1.8L
<作り方>
- 口の広いビンをよく洗い、ホワイトリカーで消毒する
- よく洗ったイヌマキの実の水気をとる
- ビンに材料を全部いれて冷暗所で保管する
- 2ヵ月~3ヵ月で完成
イヌマキ茶
<材料>(1人分)
- 収穫後干したイヌマキの花托:10g~20g
- お湯:600cc
<作り方>
- 水にイヌマキの花托を入れる
- 沸騰したらすぐにこす
イヌマキジャム
<材料>(1人分大さじ1)
- よく洗ったイヌマキの実
- 砂糖:イヌマキの実に対して8割の量
- レモン汁:適量
<作り方>
- イヌマキの実と砂糖を鍋に入れる
- ヘラでかきまぜながら煮詰める
- 好みの量になったらレモン汁をいれる
イヌマキの実の毒性
イヌマキの毒性は2粒ほど食べるだけでお腹の調子が悪くなったという話があります。イヌマキの木は白アリに強い性質で、イヌマキの緑の種子部分には、殺白アリ成分ジテルペン類のイヌマキラクトンA、B、C、Eと、ナギラクトンC、Fが含まれます。これらは食べると下痢や嘔吐などを引き起こすので誤食しないように注意しましょう。
イヌマキの実の効果・効能
イヌマキの実には血流をよくする「駆瘀血作用(くおけつさよう)」の効能があるといわれています。イヌマキの生薬名は「羅漢松実(らかんしょうじつ)」です。生薬を作るときは種子と花托の両方を使うようですが種子は有毒なので、民間療法の効果・効能を試したいときは専門家の指導をあおぎましょう。
血流の改善
イヌマキの実に期待できる効果・効能は、滞った血液・瘀血の血流をよくすることです。瘀血からくる顔色の悪さや頭痛の改善、胃周辺の重だるさや全身のだるさの解消を助けるといわれています。イヌマキ酒を寝酒として猪口1杯ほど飲むと、安眠をさそい、精神の安定につなげる助けをします。よく眠れることから、疲労回復や食欲の改善などを期待できるでしょう。
イヌマキの実の知恵
イヌマキの花托部分は人間も食べますが、トリも好物です。花托部分をトリが食べることにより種子が落ちたり、まるごと飲み込んで糞として落ちたりして子孫が増えます。トリだけでなく、人間が食べても有毒の種子部分はすててしまいます。子孫を増やすためのイヌマキの実の知恵です。生垣や庭木など刈り込んでしまうと実がつきづらいですが、のびのびと育てている神社や寺院などでお目にかかれるかもしれません。
「イヌ」は○○より劣るという意味があるの。諸説あるけど、イヌマキは上品な「コウヤマキ」という植物よりも見目が劣るという名前なんですって。