タヌキノショクダイとは
タヌキノショクダイは、一見大きな口をあけたクリオネを連想させる変わった形をしています。深海の生きものといっても通用するかもしれません。タヌキノショクダイは腐生植物(ふせいしょくぶつ)の仲間で、とても変わった生態をしています。タヌキノショクダイの自生地は日本とブラジルのみですが、日本でも限られた場所でしか発見されていません。
基本情報
学名 | thismia abei (akasawa)hatusima |
科属 | ラン目ヒナノシャクジョウ科タヌキノショクダイ属 |
形態 | 腐生植物、菌従属栄養植物、寄生植物 |
自生地 | 日本、ブラジル |
花茎 | 1cm~4cm |
花期 | 6月下旬~8月中旬 |
和名 | 狸の燭台 |
タヌキノショクダイの名前の由来
タヌキノショクダイというユニークな名前は、タヌキがろうそくをのせた燭台(しょくだい)をもっている形に似ていることが由来です。タヌキの「食台」ではありません。なぜタヌキなのか諸説ありますが、役に立たないものを意味するときに、動物の名前をつける傾向があります。最初に発見されたのが「阿波狸合戦」の逸話の徳島県ということも関係があるでしょう。
生育地
日本で有名なタヌキノショクダイの生育地は、徳島県那賀町です。ほかには宮崎県や静岡県、東京の神津島でも発見されました。1972年に鹿児島県霧島市で新種として「キリシマタヌキノショクダイ」が発見されましたが、すでに絶滅しています。兵庫県で「ヒナノボンボリ」として標本になっていたものが「コウベタヌキノショクダイ」と1992年に認定されましたが、こちらも絶滅しています。
ボタニ子
ボタ爺
好みの土地や状況がわかっていないから、どうやったら守れるのかわからなくて難しいんだよ。スギよりカシの落ち葉が好きらしいんだけどね。
花期
タヌキノショクダイの花期は夏です。6月下旬~8月中旬にかけて小さな1cmほどの半透明の花を咲かせます。しかし、落ち葉の下でひっそりと咲くので発見はとても難しいです。徳島県のように同じ場所で毎年咲くのは珍しく、その数も年によってまちまちです。
ボタニ子
タヌキノショクダイは、陸貝の研究者が貝を探して落ち葉をかきわけていたときに咲いているのを発見されました。
タヌキノショクダイの特徴
特徴①壺状の花
タヌキノショクダイは、一度見たら忘れられないような個性的な花を咲かせます。全体的に半透明です。花茎は1cm~4cmで、薄い黄色い台の上の頭頂部に1つだけ壺状の花が咲きます。壺の中には6本のおしべと1本のめしべが入っています。壺の口の上に3枚の花びらがあり、上部がくっついたドーム型です。壺の部分に3本、花びら1枚につき1本の突起物が生えています。
ボタニ子
花が咲き終わると黄色い台のところから上がぽろりと落ちるんですって。
特徴②光合成をしない
タヌキショクダイは葉をもたず、見た目も半透明で葉緑素もないため光合成をしません。植物は光合成の栄養と根から得た窒素とあわせてたんぱく質を作って生きています。タヌキノショクダイは光合成をしなくても生きていけるように進化した植物です。光を求めて生息場所を変える必要がなく、光の向きの影響から葉のつけかたを変える必要もないのです。
特徴②栄養を得る方法
タヌキノショクダイは栄養をもらおうと近づいてくるキノコやカビなど菌類の根から、必要な栄養を得ています。ふつうの植物は落ち葉や倒木などで菌類に栄養を与え、菌類はミネラルを植物に提供します。植物と菌類の間では栄養やミネラルのギブアンドテイクがありますが、タヌキノショクダイは菌類から栄養を一方的に受け取るだけの植物です。
特徴③天然記念物
タヌキノショクダイが生えている徳島県那賀町の育成地は国の天然記念物に指定されており、環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧種ⅠA類として扱われています。育成地が天然記念物なので、一般の方の立ち入りはできません。数が減っているということもあり、学術調査のために定期的に観察するときのみ立ち入りの許可がでています。
ボタニ子
新種が見つかったとしてもその種類を再度見ることはまずないそうよ。だからこそ徳島県の生育地は大切なのね。
ボタ爺
ちょっとした環境の変化でなくなってしまう希少植物だからこそ、天然記念物なんだな。
タヌキノショクダイ以外の腐生植物
ギンリョウソウ
ギンリョウソウは「銀竜草」と書き、別名はユウレイタケです。ツツジ科ギンリョウソウ属で、日本のほかには台湾やヒマラヤなどに自生しています。花期は夏で白い花が横向きに咲き、中に丸く青いめしべと黄色いおしべが入っています。花茎は10cm~15cmです。腐生植物のなかでは有名な花で、日本全国に自生しています。
ヒナノシャクジョウ
ヒナノシャクジョウは、ヒナノシャクジョウ科ヒナノシャクジョウ属の植物です。日本や台湾、インドやタイなどに自生しますが、愛知県では絶滅危惧種Ⅱ類に指定されています。花茎は3cm~15cmで、花茎の先端に6mm~10mmの白い筒状の花を2個~6個咲かせます。花期は7月~10月です。
マヤラン
マヤランはラン科シュンラン属の植物で、神戸市の麻耶山で発見されたのでこの名前がつきました。花茎は10cm~30cmで、頭頂部に8mm~10mmの花を2個~6個咲かせます。白い色に赤紫のラインが入っていますが、個体差があり模様もまちまちです。マヤランの個性的なところは二度咲きする性質です。6月~7月と9月~10月の夏と秋に咲きます。
ツチアケビ
ツチアケビは、ラン科ツチアケビ属の植物で別名は「山錫杖(やましゃくじょう)」です。花茎は茶褐色、花は黄褐色で50cm~100cmにもなる大型の腐生植物です。緑の多い山林の中に葉もつけずにいきなり黄色い花が大量に咲くのでインパクトが強いでしょう。花もさることながら、名前の由来となった果実もまた個性的です。真っ赤な6cm~10cmのアケビのような果実を大量につけます。
超個性的な腐生植物の世界をのぞこう
タヌキノショクダイは、少しの環境の変化であっという間に絶滅にひんしてしまう希少な植物です。徳島の生育地をのぞき、どこから生えてくるのか、なぜ生えたのかもわからず現代でも謎は多いです。落ち葉の下で開花する個性的な形の花、自ら光合成をせず菌類から栄養を横取りする生態は、多くの人の興味を惹きます。小さな体でしたたかに生きている植物といえるでしょう。
静岡県の生育地も貴重な植物だからって散歩道を立ち入り禁止にしたらうっそうとしてしまって、消滅しちゃったみたい。