バルサムとは
「バルサム(balsam)」とは、一眼レフカメラやデジタル一眼レフカメラのレンズに使われている接着剤のことです。この接着剤を用いてレンズを接着する作業のことを「バルサム加工」「バル加工」と呼んでいます。現在では、バルサム加工されているカメラは少なくなりましたが、カメラ好きの間では、「バルサム切れ」など耳なじみのある用語です。
本来の意味
バルサムとは、植物から分泌される樹脂などが混ざったねばりけのある液体を指します。マツから取れる松脂(まつやに)もバルサムの一種です。昔は実際に、バルサムを使ってレンズを貼り合わせていました。しかし黄色く変色したり、耐候性が劣ったりなど劣化が激しいことから、徐々に合成接着剤が主流となっています。近年ではあまり見かけなくなり、名前だけが残っている状態です。
バルサムの種類
バルサムとは、特定の種や分類群を指す言葉ではありません。樹液を分泌する樹木は総じて「バルサム樹」と呼ばれ、世界各国にさまざまな種類があります。採取する樹木によって、香りや色、性質などはさまざまです。そのため、カメラなどの接着剤としてのみでなく、幅広い用途で使われています。
①カナダバルサム
カナダバルサムは、アメリカやカナダに広く分布するバルサムモミから採取される天然樹脂です。松脂に似た性質を持ちます。屈折率がガラスに近いことから、かつてカメラのレンズの接着に使われていたのもこの種類です。はちみつのような薄い黄色~茶褐色でねばりけがあり、独特の芳香はアロマテラピー用の精油や香料にも用いられています。
②ペルーバルサム
ペルーバルサムは、中央・南アメリカに主に分布するマメ科の植物から採れるバルサムです。ペルーを経由してヨーロッパに持ち込まれたことからこの名が付きました。実からも木片からも抽出可能ですが、実から抽出されたもののほうが良質です。原産地の原住民は古くから薬として利用していました。オリエンタル調の香りのペルーバルサムは、化粧品の香料や精油としても利用されています。
③トルーバルサム
トルーバルサムは、南米原産の「Myroxylon toluiferum(ミロキシロン・トルイフェラム)」というマメ科の植物から得られます。花は非常に強い香りを持ち、100m先からでもわかるといわれています。香りはバニラに似ていて、香水や化粧品、お菓子の香りづけなどが主な利用方法です。国内でのバルサムの流通はほとんどないものの、欧米では皮膚軟膏やシャンプーなどに使われています。
④コパイババルサム
コパイバは南アメリカやアフリカに分布する植物です。南アフリカの先住民やヨーロッパの人々は、古くからコパイババルサムを抗炎症剤として利用していました。甘いウッディー調の香りがするため、医療用のほか、シャンプーや石鹸、化粧品などにも人気ですよ。小さな黄色い花を咲かせ、そのあとに赤い実をつけます。
「バルサム切れ」はどんな状態?
レンズの接着がはがれた状態
「バルサム切れ」とは、カメラのレンズの接着がはがれた状態のことです。レンズは2枚あわせで圧着されているため、経年劣化することによってこの圧着部分がはがれてしまいます。レンズの周辺部分のノリがはがれたような状態になっていることが多いです。バルサム切れはデジタルカメラには起こりませんが、フィルムカメラの古いレンズ(オールドレンズ)には見られることがあります。
バルサム切れがおよぼす影響
バルサム切れが起こると、レンズにクモリやブツブツとした点などが現れます。そのまま写真を撮ると、まるで目が悪くなったような、ぼんやりとした写真になりやすいです。レンズのまわりに多少のバルサム切れがある程度であれば、それほど影響はありません。しかし、だんだんとバルサム切れが拡大する可能性は高いため、はっきり撮るなら放置しないほうがよいでしょう。
ボタ爺
バルサム切れの修正は自分で対処も可能じゃが、割れなどが不安なときは業者に頼む方法もあるぞい。
バルサム切れレンズの見分け方
オールドレンズ(フィルム時代のカメラレンズ)を購入するときには、バルサム切れを起こしていないか確認することが重要です。見分け方はレンズ接合部が白くなる、フチが黄色くなるなどレンズが変色していたり、虹状になっていたりしないことがポイントです。カビやクモリに比べるとバルサム切れレンズの流通は少ないですが、見落としやすいので気をつけてくださいね。
バルサムは写真の仕上がりに大きく影響する
レンズの接着剤であるバルサムは、カメラにとって非常に重要な部分です。バルサム切れを起こしたレンズはぼやけた写真になりやすく、劣化はどんどん広がっていきます。オールドレンズを選ぶときには、バルサム切れになっていないか、しっかりと確認しましょう。見分け方のポイントを押さえておけば、良質なオールドレンズを入手可能ですよ。
出典:写真AC