トウガラシはなぜ辛い
ボタニ子
トウガラシはなんで辛いんだろう?
ボタ爺
ふむ、単純なようで難しい疑問じゃな。そもそも辛味とは何なのかを考えよう。
辛くなる仕組み
そもそも「辛味」とは
人間の皮膚(真皮)には様々なセンサーが埋め込まれており、圧力、冷感、熱など外部からの刺激を感知しています。さらに舌や鼻には化学物質センサー、目の網膜には光センサー、耳の内耳には重力センサーが発達しています。
ボタニ子
センサーだらけだね。
ボタ爺
ではこれらのセンサーのうち、辛味を感知するのはどれだと思うかね?
ボタニ子
舌にある化学物質センサーじゃないの?
ボタ爺
ヒント。昔話の「かちかち山」で、ウサギはタヌキの火傷跡に薬だと言ってトウガラシの粉を塗った。するとタヌキはどうなった?
ボタニ子
確か痛くて飛び上がったんだっけ。そうか、辛味は舌だけじゃなく皮膚でも感じ取れるんだ!
ボタ爺
トウガラシを手で揉んだ時も、ヒリヒリ痛むじゃろ。
ボタニ子
ヒリヒリして、だんだん熱くなってくるよね。ということは、辛味は皮膚の熱センサーで感じ取っているんだね。
熱センサーをカプサイシンが刺激する
トウガラシの果実にはカプサイシンというアルカロイドが含まれています。カプサイシンは皮膚の熱センサーに結合することで、実際は熱くないのに熱センサーを作動させてしまいます。その結果、熱いものに触れた時と同じような感覚が生じます。
ボタニ子
トウガラシのカプサイシンが、皮膚の熱センサーに感知されてしまうんだね。その時に感じる「熱さ」のことを、「辛い」と表現しているんだ!
トウガラシで辛味を感じる仕組み
- トウガラシに含まれるカプサイシンが、皮膚の熱センサーに結合する。
- 熱センサーが作動し、「熱い」という情報が脳に行く。
- この「熱さ」のことを、人は「辛味」と呼んでいる。
なぜわざわざ辛くなるのか
トウガラシの実をついばむシラギクタイランチョウのなかま。トウガラシが辛い理由を考える大ヒントです。
ボタニ子
辛くなると、トウガラシにとっては何かいいことがあるの?
ボタ爺
うむ、それは良い疑問じゃな。キダチトウガラシの紹介を思い出してみよう。キダチトウガラシは、どうやって南米から沖縄まで分布を広げたのかな?
ボタニ子
えっと…鳥が実を食べて、種を運んでくれた!
ボタ爺
では、鳥はトウガラシを食べるということじゃな。すると、鳥は辛味が大好きなのかな?
ボタニ子
鳥って辛いもの好きだっけ?
ボタ爺
それは鳥に訊いてみないと分からんなぁ。じゃが、「鳥は辛いものが好き」以外の仮説も考えられるんじゃないかな。
ボタニ子
うーん…。そうか!ひょっとして、鳥は辛味を感じないのかな?
鳥の「熱センサー」にカプサイシンを投与しても反応しないことが、実験でも示されています。鳥は辛味に強いのではなく、そもそも辛味を感じていないと考えられます。
トウガラシは鳥に食べられたい
鳥はカプサイシンの辛味を感じないので、トウガラシの果実を難なく食べてしまいます。一方、辛味を感じる哺乳類(ネズミやサルなど)は、基本的にトウガラシを食べません。
ボタニ子
哺乳類なのにトウガラシを食べる人間って、変わってるんだね。
鳥に食べられることで、トウガラシはより遠くへ種子を飛ばすことが可能になるのです。一方で鳥の方も、哺乳類に横取りされることなくトウガラシを食べられます。
ボタニ子
トウガラシは哺乳類には食べられたくないけど、鳥には食べられてもいいってこと?なんでだろう。
ボタ爺
トウガラシの種は哺乳類に食べられると死んでしまうんじゃ。しかし鳥に食べられても種は消化されずに生き残り、また発芽できるんじゃ。
ボタニ子
「鳥は種を運んでくれるから食べてもいいけど、哺乳類は種を殺しちゃうから食べちゃダメ」ってこと!?トウガラシ賢い!
トウガラシにとっての辛味のメリット
- 種子を消化してしまう哺乳類を、辛味で撃退できる。
- 種子を遠くへ運んでくれる鳥には、危害を与えずに済む。
ボタ爺
ただし栽培品種は、果実が大きくなるように育種されてきた。果実が大きいと、さすがに鳥も飲み込みにくいな。
知れば知るほど面白い
ボタニ子
トウガラシだけでこんなに話が広がるんだね。種類もたくさんあるし、辛い理由も奥が深いんだ!
7000年以上前から使われてきた歴史。ヨーロッパに渡ってから世界の料理に与えた影響の大きさ。見た目も楽しい多様な種類。辛味の仕組みと鳥との意外な関係。広く深いトウガラシの背景を知ってしまうと、何気なく見ていた七味唐辛子やタバスコが、自然と人類が生み出した遺産に思えてくるかもしれません。
ボタ爺
栽培や料理に挑戦して、トウガラシの新しい歴史を創っていこう!
焼けるような辛味は、どうやって、何のために生み出される?