農家の平均年収はどれくらい?
これから農業をはじめたいと思う人が、気になるのは年収ではないでしょうか。「手取りはいくらになるのか」「生計は立てていけるだろうか」と不安になる人も少なくありません。まずは、農林水産省のデータに基づきながら、農家の年収について見ていきましょう。
主副業別農家の平均年収
農家全体の平均年収は300〜600万円といわれています。下記の表の粗収益には、経費や販売されず残った作物等の評価額も入っています。これらを差し引いた金額が年収です。1経営あたりの平均のため、例えば主業農家が夫婦2人と考えると1人当たりの年収は330万円です。月々の手取りは、18〜22万円くらいでしょう。
個別経営( 1経営あたりの平均)
農業粗収益 | 年収 | |
主業農家 | 2028万円 | 661万円 |
準主業農家 | 544万円 | 42万円 |
副業的農家 | 247万円 | 57万円 |
主副業別とは?
かつては農業だけで生計を立てている専業農家、農業外所得のある兼業農家で統計を分けていましたが、近年はほとんどが兼業農家です。そのため主業農家、準主業農家、副業的農家に分かれています。主業農家は、所得の50%以上が農業所得で、1年に60日以上農業をしている農家のことです。準主業農家は所得の50%以下が農業所得で1年に60日以上農業をしている農家、副業的農家は65歳未満の世帯員がいない農家のことをいいます。
栽培形態別の平均年収
水田作とはお米や麦のことです。近年、食の欧米化により消費量が減少傾向にあり、比例するように農業所得も低い結果が出ています。また施設野菜は、露地野菜のほぼ倍の年収です。一年中栽培できますし、施設内で安定した質や量が見込めます。販売価格が比較的高いものもある果物は、欠食習慣など特に若い層での消費量が少ないといわれることから、露地野菜とほぼ同じ年収です。
個別経営(1経営あたりの平均)
農業粗収益 | 年収 | |
水田作 | 319万円 | 72万円 |
露地野菜 | 836万円 | 271万円 |
施設野菜 | 1589万円 | 543万円 |
果物 | 672万円 | 259万円 |
露地野菜と施設野菜の違い
露地野菜とは、野外の畑で育てる野菜のことです。天候の影響を受けやすいですが、自然の恵み豊かな野菜を育てられます。主に葉菜類や根菜類が露地野菜として育てられています。施設野菜とは、ビニールハウスやガラス温室などを使って育てる野菜のことです。季節にかかわらず、一年中野菜を育てられます。
栽培品目別平均年収
ここからは、栽培品種別の年収や経費を見ていきましょう。農林水産省の品目別統計より、10a当たりの年収を抜粋しています。全体の平均は耕地の広さで年収に大きく幅がありますが、10a当たりなら平均が掴みやすいでしょう。
露地野菜農家の栽培品目別統計
露地野菜では、青ネギ栽培農家の年収が高いです。青ネギは一度植えると、同じ株から年に何度も収穫ができるため、経費を抑えられます。青ネギ農家全体の平均年収は200〜300万円です。1つの品目で見ると、平均年収ははかなり低く感じられるかもしれません。輪作で多品目を栽培し、1年間作物の途切れない畑作りで売り上げを伸ばすのが、年収アップの秘訣です。
10a当たり露地野菜栽培品目別統計/年産
品目 | 農業粗収益 | 経費 | 年収 |
だいこん | 31万円 | 17万円 | 14万円 |
にんじん | 35万円 | 20万円 | 15万円 |
はくさい | 32万円 | 19万円 | 12万円 |
キャベツ | 39万円 | 21万円 | 18万円 |
青ネギ | 86万円 | 36万円 | 50万円 |
たまねぎ | 32万円 | 21万円 | 11万円 |
施設野菜農家の栽培品目別統計
施設野菜では、トマトやイチゴ栽培農家の年収が高い結果が出ています。トマト農家全体の平均年収は400〜500万円です。直売所の売れ筋では、季節により変動はあるものの、全体的にトマトやイチゴが好調といわれてます。需要の高さから、高めの年収につながるのでしょう。
10a当たり施設野菜栽培品目別統/年産
品目 | 農業粗収益 | 経費 | 年収 |
キュウリ | 243万円 | 108万円 | 134万円 |
大玉トマト | 259万円 | 136万円 | 122万円 |
ミニトマト | 407万円 | 204万円 | 202万円 |
なす | 351万円 | 182万円 | 169万円 |
いちご | 359万円 | 169万円 | 189万円 |
シシトウ | 375万円 | 229万円 | 146万円 |
果物農家の統計
果物では、ぶどうが年収が高い結果となりました。ぶどう農家全体の平均年収は200万円〜350万円です。日本は、世界的に見ても果物の消費量が少なく、農家数も減少しています。また、輸入量も増えており、国内産より安価で購入できる外国産のフルーツの需要が高まっています。
10a当たり果物栽培品目別統計/年産
品目 | 農業粗収益 | 経費 | 年収 |
みかん | 42万円 | 28万円 | 13万円 |
りんご | 41万円 | 23万円 | 18万円 |
日本梨 | 59万円 | 32万円 | 26万円 |
もも | 56万円 | 28万円 | 28万円 |
ぶどう | 68万円 | 33万円 | 34万円 |
年間1000万円以上稼ぐ農家もいる
近年では、農業に従事したいという若者も増えており、次世代を担う若手農家の活躍に期待が集まっています。しかし「若手では一本立ちできるほどの収入は得られないのでは?」と思う人も多いでしょう。ところが、全体の約10%は1000万円以上もの年収を手にし、憧れの農業ライフを実現させています。しかも、若手農家が多いのです。どのように年収アップにつながる農業を営んでいるのか見ていきましょう。
平均29年、農業白書で、若手農家の42.5%が1000万円以上の売り上げを上げているという数字がでています。
規模が大きい
1000万円以上稼ぐ農家は年収に比例し、規模が大きいところが多く、面積は10ha以上が7割です。東京ドームが5ha近いため、10haで東京ドーム2つ分の耕地です。広い耕地は農業機械の性能をフル活用でき、生産効率も上がります。若手農家は農家全体の約1割しか居ませんが、作付けは全体の約4割といわれ、大規模な農業を営んでいることがわかります。
スマート農業の導入
若手農家はスマート農業を取り入れ、日々の作業の効率化を図っています。ベテラン農家が長年かけて培ってきた感や経験による農作業をAIやloTの技術で補い、ロボットやドローンなどの機械も積極的に取り入れています。従来の農業では思いつかないような方法で新しい農業に取り組み、結果収入アップにつながるのです。
インターネット販売の導入
インターネットでの販売は直接販売で客側は安く購入でき、農家には中間マージンがないため売上げを伸ばせます。市場に卸すとお店に並ぶまでにも日数がかかり、日持ちする野菜が栽培に選ばれがちです。しかし、ネット販売では採れたてを販売できるため、珍しい野菜の栽培に挑戦できるなど栽培品目の幅も広げられますし、スーパーや直売所とは違い、遠方の客もターゲットにできます。インターネットによる独自の販売ルートの確保から収入を上げるのは大切です。
農業を始めるための費用とは
いざ農業を初めようと思ったとき、最初に直面する大きな壁が資金の問題です。ここでは、新規就農にかかる平均初期費用や助成金について見ていきましょう。
新規就農初期費用
農業を始めるには、土地や肥料、農薬や農機具、作業場や倉庫、作るものによってはビニールハウスや冷暖房の設備などが必要です。以下は、新規就農相談センターの統計から平均初期費用を抜粋しています。
新規就農初期費用平均
機械 施設費 |
経費 | 合計 | |
全作 | 500万円 | 158万円 | 658万円 |
水稲 | 445万円 | 130万円 | 575万円 |
露地野菜 | 228万円 | 93万円 | 321万円 |
施設野菜 | 771万円 | 227万円 | 997万円 |
果物 | 256万円 | 77万円 | 333万円 |
上記の表には土地代、生活費は含まれていません。施設野菜は露地野菜の倍以上の資金の準備が必要です。就農から何年かは、虫や風評被害にうまく対応できず、思うように収入が入らないことも考えられます。蓄えは多いにこしたことはないでしょう。
初期費用を抑えるには
中古品やレンタルを活用する
初期費用を抑えるには機械、施設、農地の確保は必要最小限に留めましょう。無理して新しいものや広い農地を手に入れようとせず、中古品を探す、リタイヤ農家から安く譲ってもらう、はじめは購入せず借りるという方法もあります。「農業経営継承事業」という制度を利用するのも一案です。後継者のいない農家から土地や機械だけでなく技術やノウハウも継承できます。
青年給付金を使う
青年給付金は、農業を初める際の研修費用や初期費用を支援してくれる制度です。青年給付金には、準備型と経営開始型の2つがあります。準備型は満45歳未満の独立、自営、雇用就農または親元での就農を希望する方が、都道府県が認める研修施設で研修を受けることで最長2年間、最大150万円の給付金が受け取れる制度です。
経営開始型は、満45歳未満の独立、自営就農希望者が、最長5年間、最大150万円の給付金を受け取ることができる制度です。受給するためには、いくつかの要件を満たすことが必要があります。
まとめ
農家の年収は、生計を立てていくには問題ない金額といえます。栽培品種によっては、大きな利益を得ている農家もいます。月々の手取りに換算すると、大きな金額になるでしょう。ただし、初期費用などさまざまなハードルがあります。上手に助成金を使いながら、何をどのくらいつくり、ターゲットは誰なのかなどを考えて、スタートを切るのが理想的といえるでしょう。