植物と季語の関係
季語とは
季語はいずれかの季節を表す言葉で、気象や動植物、食物や行事など多岐にわたります。「連歌」で季節を詠む形が生まれ、連歌から俳句が独立したときに、季節の言葉を入れる決まりが受け継がれました。「季語」と呼ばれ始めたのは近代で、長い間に培われた共通認識をベースに四季ごとに季語と代表的な句をまとめた「歳時記」や「季寄せ」などが作られるようになります。
季語は誰が決めるの?
季語を決定する機関はありません。季節を表す新しい単語が秀逸な俳句とともに浸透すれば季語として認識され、句会で使われたり歳時記などの改訂版に載ったりします。
季節の区分
季語の春夏秋冬は、二十四節気(にじゅうしせっき)の立春・立夏・立秋・立冬で区切ります。季語は旧暦のころからの文化であるため、現代の暦の季節感と少しずれを感じられるものもあります。
季節 | 時期 |
春 | 立春(2月4日頃)~立夏前日 |
夏 | 立夏(5月6日)~立秋前日 |
秋 | 立秋(8月8日)~立冬前日 |
冬 | 立冬(11月7日)~立春前日 |
暑中見舞いの挨拶は、立秋を境に「残暑」見舞いに変わるんだよ。
植物関連の季語の形
①植物の名前
花や葉が季節を感じさせる草木や、旬の野菜・果物などは、植物の名前がそのまま季語になります。複数の名前をもつ植物は、文字数や語感によって使い分けるのが句を詠むときのポイントです。俳句は五・七・五の十七文字の詩歌であるためです。大根や牡丹などは3文字や4文字どちらでも読ませられます。
<例>
芒、尾花(すすき) | コスモス、秋桜(こすもす) |
牡丹(ぼたん、ぼうたん) | 大根(だいこん、だいこ) |
②植物の状態
植物の状態や季節ごとの変化を表す季語もあります。青芒(あおすすき)、枯芒(かれすすき)などです。芒は秋の季語ですが、青芒は夏、枯芒は冬の季語です。「枯」「落」「花」「青」「芽」「新」などの状態を表す単語を植物の名前に付けて、漢字3文字などで構成する季語が多くあります。
③植物とのかかわり
植物とのかかわりを表す季語もあります。種まき、松手入れなどで、作業に適した季節を表す季語となります。これらは名詞で使っても、動詞化して使ってもかまいません。②の植物の状態を表す季語も同様で、「枯芒」も「芒枯れる」の表現も可能です。
植物の季語と俳句<春>
春の季語と俳句例①梅
梅は中国原産のバラ科サクラ属の落葉広葉樹です。日本には奈良時代に伝わったといわれ、「春告草」の別名があります。花色は白や紅色などで、ほのかな香りを放つのが特徴です。「梅」は春の季語で花の時期を指し、梅の果実は夏の季語で「青梅」「梅の実」などの単語を用います。
季語「梅」の句
- 梅一輪一輪ほどの暖かさ <服部嵐雪>
- 紅梅に積りし雪は染まりけり <永井龍男>
ボタ爺
嵐雪(らんせつ)は江戸時代の俳人で、芭蕉の門下じゃ。
春の季語と俳句例②菜の花
菜の花は、アブラナ科アブラナ属の菜種の花で、見ごろは3月~4月です。原産は西アジア周辺で、弥生時代には日本に持ち込まれていたといわれています。江戸時代には種から油を取るための栽培が盛んになりました。また、菜の花はアブラナ属の花の総称でもあり、蕪(かぶ)などよく似た黄色い花が菜の花として詠まれることもあります。
季語「菜の花」の句
- 菜の花や月は東に日は西に <与謝蕪村>
- 菜の花や行抜けゆるす山の門 <小林一茶>
ボタニ子
花の季節に通り抜けさせてくれるのってほっこりするわ。
春の季語と俳句例③花・桜
桜は、日本など北半球の温帯地域に分布するバラ科サクラ属の落葉広葉樹です。日本にはヤマザクラなどの自生種に加え、多くの交雑種や園芸種が植樹されてきました。古来、3月~4月の開花から散り際まで親しまれてきたため、季語の「花」は、伝統的に桜の花を指します。花全体のことをいう場合もありますが、桜以外の特定の花を詠むときはその花の名前を使うのが一般的です。
季語「桜」「花」の句
- 何の木の花とはしらず匂ひ哉 <松尾芭蕉>
- ちるさくら海あをければ海へちる <高屋窓秋>
芭蕉の句は伊勢神宮で詠まれたもので「笈の小文」に収蔵されてるよ。
春の季語と俳句例④菫
菫(すみれ)は、スミレ科スミレ属の多年草です。古くから俳句に詠まれてきたのは日本や東アジアに分布する菫で、2月~4月に開花します。外来種など12月~1月に咲く菫は、冬の季語「冬菫(ふゆすみれ)」を使ったほうがよいでしょう。
季語「すみれ」の句
- 山路来て何やらゆかしすみれ草 <松尾芭蕉>
- 菫程な小さき人に生まれたし <夏目漱石>
芭蕉の句は、「野ざらし紀行」収蔵です。漱石は、親友の正岡子規の句会によく参加していました。菫の句は、作家デビュー前に詠まれています。
そのほかの植物関連季語と俳句例
季節 | 主な季語一覧 |
春 | タンポポ、椿、よもぎ、春耕(耕し) |
<初春> | 蕗のとう、猫柳、ミモザ、草萌え(草青む) |
<仲春> | 木蓮、沈丁花、つくし、種まき、ものの芽 |
<晩春> | 山吹、レンゲ、チューリップ、葱坊主、茶摘み |
春の季語:俳句例
- 蒲公英の絮吹いてすぐ仲好しに <堀口星眠>
- 花ミモザ修道女われにふりむかず <下村梅子>
- 山里に首出す富士や葱坊主 <村山古郷>
- たがやすや伝説の地を少しづつ <京極杞陽>
- ものの芽のあらはれ出でし大事かな <高浜虚子>
植物の季語と俳句<夏>
夏の季語と俳句例①薔薇・茨
薔薇(バラ)は、北半球の温帯地域に分布するバラ科バラ属の落葉低木です。日本には、つる性で小さな一重の花が咲くノイバラ(茨)や香り高いハマナスが自生しています。季語として、「花いばら」「花薔薇(はなそうび)」などの表現も可能です。
季語「薔薇」「茨」の句
- 愁ひつつ岡にのぼれば花いばら <与謝蕪村>
- ひと拗ねてものいはず白き薔薇となる <日野草城>
- 薔薇の香か今ゆきすぎし人の香か <星野立子>
夏の季語と俳句例②月見草
月見草は、メキシコ原産のアカバナ科マツヨイグサ属の多年草です。江戸時代あたりに日本に入ってきたといわれています。6月~9月の夕方に白い花が咲き始め、朝にはピンク色になってしぼむ一日花です。黄色い花が咲くマツヨイグサ(待宵草)も月見草として詠まれることがあります。
季語「月見草」の句
- 月見草夕月よりも濃くひらく <安住敦>
- 月見草はらりと地球うらがへる <三橋鷹女>
そのほかの植物関連季語と俳句例
季節 | 主な季語一覧 |
夏 | 夏草、タマネギ、すべりひゆ、草刈 |
<初夏> | 若葉、たけのこ(たかんな)、牡丹、苺 |
<仲夏> | 紫陽花、枇杷、花菖蒲、サルビア、アマリリス |
<晩夏> | 仙人掌(サボテン)、向日葵、ダリア、百合、茄子 |
夏の季語:俳句例
- 柿若葉重なりもして透くみどり <富安風生>
- たかんなの影は竹より濃かりけり <中村草田男>
- 牡丹散り白磁を割りしごと静か <山口青邨>
- 紫陽花はおもたからずや水の上 <富澤赤黄男>
- 仙人掌の奇峰を愛す座右哉 <村上鬼城>
出典:筆者撮影