藤(フジ)とは
藤(ふじ)とは、春~初夏にかけて紫や白のブドウの房のような花を咲かせるつる性落葉植物です。古来、日本では歌や俳句に詠まれたり、家紋や文様に使われたりしていて、高貴な花として親しまれてきました。近年は園芸種としても人気が高く、世界中で栽培されています。
基本情報
学名 | Wisteria floribunda |
属名 | マメ科フジ属 |
英名 | Japanese wisteria |
原産地 | 日本(本州・四国・九州・沖縄) |
樹高 | 10m以上 |
花期 | 4月~5月 |
花の色 | 紫・白・ピンク |
名前の由来
「フジ」という名前は「吹き散る」という言葉が由来といわれています。また、中国では「藤」という文字に「ツタ」という意味があることから「藤」という文字が使われるようになりました。江戸時代の儒学者・新井白石が書いた辞書「東雅(とうが)」で、「フジ」は「フシ」がなまったもので「節のある藤生(ツタ植物)のこと」と記されています。
学名(ウィステリア)の由来
学名にあるWisteria(ウィステリア)は、アメリカの医師で解剖学者でもあったCaspar Wistar(カスパール・ウィスター)にちなんでつけられました。藤の花は19世紀初頭に中国からヨーロッパに渡り、植物学者のトーマス・ナトールが偉大な医師であるカスパール・ウィスターに敬意を表して名づけたとされています。
藤の花の異名
昔から藤の花にはいくつかの異名がつけられており、和歌などに使用されてきました。藤の花は女性にたとえられる植物でもあったため、見た目の美しさに由来するものだけでなく、恋心を伝えるときなどにも異名が使われていたのです。
異名①野田藤(ノダフジ)
野田藤とは、日本で見られる多くの藤の花の異名です。大阪市福島区野田近辺が、江戸時代からの藤の名所といわれていたことに由来して名づけられました。
異名②紫草(むらさきぐさ)
紫草は、平安時代から使われることが多くなった藤の花の異名です。奈良時代ごろまでの「紫草」は根が紫色の染料に用いられる「紫根」という植物のことを指していましたが、平安時代に入り「紫」という色彩表現が定着したことによって、藤の花を紫色の花という意味で「紫草」と呼ぶようになったとされています。
異名③松見草(マツミグサ)
松見草とは、藤の花がやさしく松を見ているように感じられることからつけられた異名です。古来、藤の花は振り袖に見えることから女性にたとえられ、松は幹が太くどっしりと構えている姿から男性にたとえられてきました。松と藤は夫婦や男女仲の睦まじさを表すために並べて植えられることも多く、この異名がつけられたとされています。
異名④二季草(ふたきぐさ)
二季草という名前は、藤の花が春と夏の2つの季節に花を咲かせることから名づけられた異名です。これは昔の暦に沿ったもので、藤の開花時期が4月~5月と立夏を過ぎても花が咲いていることから、二季に渡って咲く「二季草」と呼ばれるようになったといわれています。
藤の花の特徴
藤は、花のつき方やつるの巻き方など特徴的な部分が多い植物です。また生命力の強い植物でもあり、なかには樹齢1000年以上になるものもあります。
特徴①花
藤は垂れ下がる花房(総状花序)に蝶のような形をした小さな花をたくさん咲かせるのが特徴です。花房の長さは20cm~50cmほどで、品種によっては200cmにまでなるものもあります。色は紫、白、ピンクなどで、特有の甘い香りのする花を4月~6月ごろに咲かせます。
特徴②葉
藤の葉は、長さ20cm~30cmほどの奇数羽状複葉で小葉(複葉を構成する葉)の数は9枚~19枚です。楕円形や卵形で厚さは薄く、葉の表面全体に細かい毛が生えています。
特徴③つる
藤は、木などにつるを絡ませて伸びていく習性があります。観賞用の藤はこの特性をいかして藤棚を作り管理します。また藤のつるは丈夫で、昔からざるやカゴなどの材料としたり、皮から取った繊維で衣服や縄や網などが作られたりしていました。平安時代は藤は神聖なものとされ、貴族たちが喪中に藤で作った服を着ていたそうです。
特性④果実
藤の果実は、マメ科特有の細長く平べったいサヤ状の実です。長さは15cm~30cmほどで、皮の表面には細かい毛が生えています。1つの花房に2個~3個しか実がつかないのが特徴です。葉が落ちる時期に乾燥したサヤが弾けて中の種が飛び散る仕組みになっています。
藤の花の種類
藤の花は古事記に登場するほど古くから日本に自生しており、ノダフジ系とヤマフジ系の2つの系統に分かれます。自生しているものは数種類とされていて、園芸用は花の色や房の長さなどの違いがあるさまざまな品種が作られています。
種類①ノダフジ
ノダフジ(野田藤)とは一般的な藤の別名で、日本で多くみられる品種です。鎌倉時代初期から現在の大阪市福島区野田近辺に多く生えていたとされ、江戸時代には「野田の藤」として有名でした。ツルが右巻きで花房が長いのが特徴で、4月~5月に紫や白の花を咲かせます。葉は奇数羽状複葉で、小葉は11枚~19枚です。
種類②ヤマフジ
ヤマフジ(山藤)は兵庫県より西の山野に自生している品種です。ツルが左巻きで花房が短く花が大きいという特徴があり、4月に紫の花を咲かせます。葉は奇数羽状複葉で小葉の数が9枚~11枚とノダフジよりも少ないという違いもあります。
種類③シロバナフジ
シロバナフジ(白花藤)とは、その名のとおり白い花を咲かせるのが特徴の品種です。ツルは右巻きで花房は長く、開花時期が4月~6月とほかの品種よりも遅いという特徴もあります。愛知県豊田市の藤棚の回廊や栃木県足利市のあしかがフラワーパークの藤棚などが有名です。
種類④ノダナガフジ
ノダナガフジ(野田長藤)はノダフジの園芸種品種です。別名「六尺藤」とも呼ばれ、花房が70cm~80cmと長いという特徴があります。葉は奇数羽状複葉で小葉は11枚~19枚です。開花時期は5月ごろで紫の花を咲かせます。埼玉県熊谷市の江南の藤やあしかがフラワーパークなどの藤棚が有名です。
種類⑤アケボノフジ
アケボノフジ(曙藤)とは、山陰地方や四国、九州などに自生している白花種の藤です。つぼみは薄紅色で、花は白く花弁の先だけが薄紅色になるという特徴があり、別名「口紅フジ」とも呼ばれています。開花時期は4月中旬~5月下旬で、岡山県倉敷市の阿知神社の藤が天然記念物にも指定されていて有名です。
藤の花言葉
藤の花にはいくつかの花言葉がつけられています。藤の花は上品でやわらかなイメージの花に由来した花言葉が多いのですが、とらえ方によっては少し怖い意味のものもあります。
花言葉①やさしさ・歓迎
藤の花房が垂れ下がっている姿が、おじぎをしてやさしくお客様を迎えている女性のように見えることからつけられた花言葉です。
花言葉②恋に酔う
藤のつたが松など木の幹に巻きついている姿が、男性に寄り添って手を伸ばす女性の姿を連想させることからこの花言葉がつけられました。また、源氏物語の藤壺の君が源氏との恋の深みにはまっていくエピソードが由来ともいわれています。
花言葉③決して離れない
藤のつたがほかの木に絡まって成長する姿からつけられた花言葉です。永遠の愛を誓う言葉とも取れますが、藤は絡まった木を枯らせてしまうこともあるため、少し怖い意味としてもとらえられます。