ハラン(葉蘭)とは
学名は「より背の高い」の意
ハラン(葉蘭)は、学名をAspidistra elatiorといいます。深い緑色の大きな葉が、とても美しい常緑多年草です。学名のAspidistraはハラン属を意味し、ギリシャ語の「aspidion(小楯)」と「aster(星)」が語源になっています。大きな葉が楯で、後述する花が星に見えたのでしょうか。elatiorは「より背の高い」という意味です。
ユリ科からクサスギカズラ科に移された
ハランは元々、ユリ科に分類されていました。しかし遺伝子の解析結果を元にして分類したAPG体系では、クサスギカズラ科に分類されています。クサスギカズラ科はキジカクシ科、アスパラガス科とも呼ばれるそうです。
ハランの歴史
江戸時代には馬蘭とよばれた
ハラン(葉蘭)は、古名をバラン(馬蘭)といいます。蘭のような形の葉で大きいことから、中国で名付けられた名前だそうですが、蘭の仲間ではありません。バラン(馬蘭)が江戸時代に清音化して「ハラン」と呼ばれるようになり、江戸後期には漢字も「葉蘭」の字が当てられるようになりました。
ハランは日本原産の植物
『葉蘭をそよがせよ(Keep the Aspidistra Flying)』(1936年)は、イギリスの作家ジョージ・オーウェルの自伝的小説です。この中でハラン(葉蘭)は、イギリス中産階級の象徴として描かれています。
ハラン(葉蘭)は江戸時代に中国から渡ってきたという説がありますが、現在では次項でも述べるように、日本原産とされています。ハランはヨーロッパでも広く栽培され、洋風の建物や庭にもよく合う植物です。これは日本から伝わったものだといわれています。ハランはヨーロッパの人々をも魅了したのです。
野性のハランの分布
ハランの自生地は九州南部の島々
ハラン(葉蘭)はかつて中国南部原産とされていましたが、中国で野生のハランは発見されていません。近年の研究で、本来の自生地は九州南部の宇治群島、黒島、諏訪之瀬島であることがわかりました。これらのことから現在では、ハランは日本原産の植物とされています。
「ハラン」の名がつく植物もある
他にも「ハラン」の名がつく植物として、アリサンハラン、ダイブハラン、ムシャハランなどがあります。これらはハランと同属とする記述もありますが、最近の研究ではハランと別属とされるようです。近年APG体系で植物の分類が組み替えられていることもあり、植物の世界はまだまだ謎に包まれているのかもしれません。
ハランの種類
斑入りの園芸種も人気
ハランは江戸時代から発展し改良された、伝統園芸植物として知られています。現在ではさまざまな斑入りの園芸品種も出回っており、観葉植物として人気があります。古くから伝わるのは、葉先に大きな斑が入ったものです。他にも縞模様、細い黄色の中斑が入ったもの、星のような斑が入ったものや、矮性の品種も出ています。画像は矮性で、縞斑と星斑が混じったものです。
ハランの花言葉
ハランの花言葉は、「強い心」「強い意志」「平癒」です。「強い心」「強い意志」は、一年中大きな葉がまっすぐに伸びており、日陰でも元気に育つことからつけられています。「平癒」は、ハランが民間療法で利尿薬や強壮剤や去痰薬、痛み止めなどに使われたことに由来するそうです。目標に向かって努力を続けている人や、病気を克服した人に贈るとよい植物とされています。
ハランの特徴
ハランはどのような特徴を持つ植物なのでしょうか。江戸時代から日本人の身近にある園芸植物でありながら、詳しく知らない方も多いかもしれません。ハランの興味深い特徴や生態をご紹介します。
草丈等の特徴
ハランは、草丈が20~100cmほどの多年草です。冬でも枯れることなく、大きな深い緑の葉を広げて立ち並びます。茎は地下茎で、地面の中を横に這って広がる頑健な植物です。
葉の特徴
ハランの葉は先のとがった楕円形で、長さは50cm以上にもなります。深緑色でつやがあり、薄いながらも丈夫な葉です。若い葉は画像のように、縦にくるくると巻いた状態で出てきて、成長するにつれて開いていきます。葉を切るとよい香りがするのも特徴です。地下茎から大きな葉が無数に出て密生した群落を作る姿は、見ごたえがあります。
花は咲く?
ハランの花はひっそりと咲く
ハランは園芸に多く用いられる身近な植物ですが、葉ばかりで花が咲かないかのように思われているかもしれません。家の庭に何年も植えられているのに、花に気づかない方も少なくないのです。ハランの花は葉にかくれて地面すれすれに咲きます。花の季節は3月下旬~5月上旬です。この時期に葉をかき分けてみると、株元に地面から半分顔をのぞかせたような格好で、花が咲いているのが見られます。
花は赤紫色で王冠のような形
蕾はまるでキノコのようにも見え、8つに裂けて咲いた姿は王冠のようです。花は多肉質で、2~4cmくらいのつぼ型をしています。中心部分は赤紫色、縁はクリーム色です。下記記事には、花の断面の写真が掲載されています。つぼ型の花の中央に、盃のような形の花柱があり、葯(雄しべにある花粉の袋)はその下に隠れているそうです。興味がある方は、ハランの花の構造をご覧になってみてください。
実はなる?
ハランはれっきとした被子植物で、花の後には実りの季節を迎えます。ちょうど大きさも色もスダチの実にそっくりで、直径2~3cmの濃い緑色の実です。中には種が並んで入っており、熟すと外にこぼれ出ます。普通種はコーンのような茶色、斑入りの品種ではそれを焦がしたような黒っぽい色だそうです。
ハランの花粉を媒介するのは誰?
キノコバエが花粉を媒介する
ハランの花粉を媒介するのは何者か?これが長い間植物界における議論の対象でした。現在ではキノコバエ類が受粉をになっている説が有力です。もともとは1889年に発表された、カタツムリやナメクジが受粉を助けているとの仮説が信じられてきました。しかしこれは自生地での観察に基づいていなかったのです。この仮説を覆したのは日本の科学者でした。
ハランは世界で最も変わった花?
1995年には加藤真が自生地で調査を行い、甲殻類であるニホンオカトビムシがハランの花粉を食べて、長く花にとどまることをつきとめました。このことから、ニホンオカトビムシが花粉を媒介している可能性を示唆したのです。ナメクジや甲殻類などの翅を持たない土壌生物に花粉を運んでもらう植物はほとんどありません。そこでハランは、「世界で最も変わった花」と呼ばれていたのです。
ハランはキノコバエを騙している
しかし2009年に加藤の教え子である末次健司が、主にキノコバエ類がハランの花粉媒介者となっているという見解を示しました。キノコバエ類は、幼虫がキノコを食べて育ちます。地面すれすれにあるハランの蕾はキノコにそっくりです。ハランはキノコに擬態した花と香りでキノコバエを騙しておびき寄せ、花粉を運ばせているといいいます。ちなみにハランの花のにおいは、セメダインに似ているそうです。
ハランの生き残り戦略は興味深い
翅を持つキノコバエ類に受粉を助けてもらう植物は少数ですが他にも知られており、ハランは「世界で最も変わった花」とは言えなくなってしまいました。それでもキノコに化けて受粉を手伝ってもらうとは、興味深い生態だといえるでしょう。詳しくは下記の記事を参考にご覧ください。
ボタ爺
次項では、ハランの育て方をご紹介します。
ハラン(葉蘭)
学名:Aspidistra elatior
クサスギカズラ科ハラン属
常緑多年草