食虫植物ウツボカズラの概要
ウツボカズラは、ウツボカズラ科ウツボカズラ属の植物です。常緑性のつる性植物で、熱帯アジアを中心に分布します。自生地では4~15mに達するものもありますが、観賞用に出回るものは10~30cm程度です。ウツボカズラをはじめとする食虫植物は、栄養が乏しい土壌に進出するために、葉を捕虫器に進化させたと考えられています。
落とし穴式で虫を捕らえる
ウツボカズラの捕虫器は、落とし穴方式で虫を捕らえるつぼ型です。虫は、捕虫器の口付近にある蜜腺から分泌される蜜でおびき寄せられます。口の辺りは非常に滑りやすくできているため、虫は足を滑らせて捕虫器の中に落ちてしまうのです。虫は内部の消化液で溶かされて、栄養分として吸収されます。ウツボカズラの基本的な育て方については下記記事をご参照ください。
ウツボカズラを増やす適期
増やすのに適した親株の状態
取り木や挿し木に適する場合
取り木や挿し木による増やし方に適するのは、親株が次のような状態の場合です。
- 大きくなり過ぎた
- 枯れた下葉を取るなどしたため、形が悪くなった
- 捕虫器が枯れる
- 新しい捕虫器がつかない
ボタ爺
今回は親株が根元で2本に分かれておるから、片方を取り木、もう片方は挿し木をしてみるぞ。
株分けに適する場合
株分けによる増やし方に適するのは、次の場合です。
- 親株の株元に子株ができた
ボタニ子
こんなに小さな子株でも、かわいい捕虫器がついているのね!ウツボカズラを増やす時期は、いつでもいいの?
増やすのに適した時期
ウツボカズラを増やす適期は5~7月です。ウツボカズラは寒さに弱く(耐寒温度15~20℃)、十分に暖かくなるまで待ちます。また、乾燥にも弱いため、梅雨の前~後の湿度が高い時期が適当です。
ボタニ子
早速準備を始めましょう!
ウツボカズラの増やし方で必要なもの
ウツボカズラを増やす方法には、取り木、挿し木、子株の株分けがあります。どの方法でも共通して必要なものは次のとおりです。
材料・道具 | 用途 |
水苔 | 使用する前に使用する分だけ取り出し、十分に水を含ませて用いる。 |
ナイフ・はさみ | よく切れる清潔なもの。茎や葉を切る。 |
バケツなど | 水を入れ、作業中に茎や根が乾かないように浸けておく。 |
鉢底石 | 鉢底に入れることで通気性をよくし、根腐れを防ぐ。 |
新しい鉢 | 吊り鉢やポットでもよい。 |
ボタ爺
まずは取り木による増やし方じゃ。取り木では前もって準備しなければならないことがあるぞ。
ウツボカズラの増やし方【取り木】
①準備
取り木の場合には、まず茎から発根させるための作業が必要です。発根には数週間~2カ月程度かかるため、植え付けたい時期から逆算して、取り木の準備を始めましょう。下表はその際に必要なものです。
材料・道具 | 用途 |
水苔 | 取り木用。 使用する前に使用する分だけ、十分に水を含ませて用いる。 |
透明ビニール袋 | 取り木をする茎に巻き付けた水苔の上に巻き、水分を保持する。 |
紐 | ビニール袋を縛る。園芸用ワイヤーでも可。 |
ナイフ・はさみ | よく切れる清潔なもの。葉や茎を切る。 |
②発根
取り木する部分を決める
取り木は、茎の途中から発根させてから親株から切り離し、新しい株として独立させる増やし方です。取り木する部分には、潜芽(せんが)のある部分を選びます。潜芽とは、新しい芽が出る部分のことで、ウツボカズラの場合は葉の上の茶色の点やくぼみがある部分です。潜芽の下から発根させるため、この部分の葉は切り落とします。
舌状剥皮を行う
ウツボカズラの取り木は、舌状剥皮(ぜつじょうはくひ)という方法で行います。潜芽の下の部分に、斜め下から浅めにナイフを入れてください。切り落とさないように注意しましょう。切り込みを入れた部分はちょうど舌のような形です。切り込みの部分に湿らせた水苔をはさみます。
ボタ爺
発根促進剤を使ってもよいぞ。
水苔を巻き付ける
湿らせた水苔で、舌状剥皮を行った部分の茎を包むように巻きます。水苔の上からビニールを巻き、ぎゅっと固めに引き締めてください。ビニールを麻紐で縛りますが、下側はきつめに縛り、上側は緩めに縛ります。水苔が重くて茎が垂れ下がるなら、支柱や吊り鉢の釣り紐部分に縛って支えましょう。水苔が乾いたら上側から注水し、湿った状態で数週間~2カ月程度おきます。
ボタニ子
水苔がちょっと緩かったかしら?ビニールの上から触るとふかふかだわ。
ボタ爺
どうしても水苔が硬めに巻けない場合は、次の画像のように真ん中辺りにも麻紐をかけ、締めてやるとよいぞ。
③植え付け
発根したかどうかは、ビニールと水苔をそっと開いてみるとわかります。発根が進んでいる場合は、開かなくても透明なビニールを通して根が確認できるかもしれません。発根していたら、水苔を巻いた部分の下で茎を切ります。ビニールを取り外し、水の中で軽く水苔を落としましょう。水苔が残っていても大丈夫です。ウツボカズラの繊細な根を傷めないことを最優先します。
ボタ爺
発根がなかなかみとめられない場合、季節や株の状態によっては、挿し木に切り替えるのも選択肢のひとつじゃよ。
取り木した部分の根元を新しい水苔で包み、鉢底石を入れた鉢に入れます。ぐらつかないように隙間に水苔を詰めてください。植え付け後2週間は明るい日陰で水苔が乾燥しないように管理し、葉水を与えながら養生します。新しい捕虫器がついたら植え替えても大丈夫です。
ボタ爺
次は挿し木による増やし方じゃ。
ウツボカズラの増やし方【挿し木】
挿し木をする場合は、ウツボカズラの先端の葉から3~4枚の位置で切ります。そこから2節以上ごとに、葉の下で切っていきましょう。その際、どの挿し穂にも必ず潜芽がついていることが大切です。切った挿し穂はすぐに、バケツなどに入れた水につけてください。
ボタニ子
複数の挿し穂を作れば、全滅の危険が減って安心ね。でも、私は数をたくさん増やすよりも、ある程度大きな株で残したいわ。
ボタ爺
その場合は挿し穂を大きめに取ってもよい。水苔に挿し込む部分も長めにとると安定するぞ。
挿し穂の切り口は、よく切れるナイフで斜めに切り直します。水を吸う切り口の面積を増やし、切り口をつぶさないためです。挿し床に入れる下部の葉は切り落とします。残りの葉は、蒸散を抑えるために半分程度に切るのが挿し木の定石です。作業の合間も挿し穂は水につけておき、乾燥しないようにしてください。
ボタ爺
ウツボカズラは乾燥に気をつければ、比較的挿し木しやすい植物じゃ。上部の葉を半分に切らなくても成功することもあるぞ。
新しい鉢かポットに鉢底石と濡らした水苔を入れ、挿し穂を挿します。発根促進剤をつけてから挿しても問題ありません。水苔はふかふかではなく、挿し穂が安定するようにしっかりめに詰めてください。葉水を与え、水苔が乾かないように注意しながら、明るい日陰で管理しましょう。
ボタ爺
水苔ではなく、水に挿した状態で発根を待つ方法もあるぞ。
約1~2カ月後、潜芽の部分をよく見ると、新しい芽が出始めています。日光と水分、湿度を十分に与えてください。新しい捕虫器ができたら鉢上げできます。
ボタニ子
次は子株の株分けのやり方ね。
ウツボカズラの増やし方【株分け】
株分けをするウツボカズラをやさしく鉢から取り出し、1株ごとに分けます。古い水苔や黒く傷んだ根があれば、取り除きましょう。ウツボカズラの根は繊細で乾燥に弱いため、バケツの水の中で根を軽くほぐすのがおすすめです。傷んだ葉や捕虫器があれば切り取ります。
水を含ませた新しい水苔で、根元を包んでください。鉢底石を入れた鉢に入れ、株がぐらつかないように水苔を詰めます。2週間は葉水を与えながら、水苔が乾き過ぎない程度に管理しましょう。成長が始まったら水やりを開始します。
増やし方を知ってウツボカズラを育てよう
ウツボカズラは見た目がユニークで、観葉植物としても面白い植物です。虫を食べるという生態は、子どもにとっても興味深いかもしれません。ウツボカズラは、時期と乾燥に注意すれば簡単に増やせます。ウツボカズラを入手してお世話に成功したら、次は増やすことに挑戦してみてはいかがでしょうか。
出典:筆者撮影(本記事掲載の全画像)