イノコヅチとは?
イノコヅチは、ヒユ科イノコヅチ属の多年草の植物です。林縁など、日陰に多く生息していて、イノコヅチの果実はひっつき虫の一種としても知られています。
基本情報
学名 | Achyranthes bidentata var. japonica |
分類 | ヒユ科イノコヅチ属の多年草 |
別名 | ヒカゲイノコズチ |
分布 | 本州、四国、九州 |
花期 | 8月~9月 |
葉の特徴
葉は、茎に対して同じところから生える対生(たいせい)です。葉の先がとがる長楕円形をしています。ほとんど無毛に近いですが、葉にはうっすらと毛が生えていて、特に裏面は葉脈上の上に毛が生えています。葉の厚さが薄いのも特徴です。毛は、短い葉柄の付け根にも生えています。
この葉の付き方が対生です。
短い葉柄があるのがわかりますね!
花の特徴
花序・花序への花の付き方
花期は8月~9月で、葉腋から10cm~20cmの穂状の花序(かじょ)をだし、この花序に下向きの小さな緑色の花をまばらにつけます。花軸にも毛がうっすらと生え、花序は下から徐々に開花し、上部の花がまだ咲いているうちに下部の花は果実になります。花が終わったあと花被は下に曲がるのが特徴です。
穂状の花序についているのが花です。
花の形や小胞
花の花被片は5個で先がとがっているのが特徴です。仮雄しべがありますがあまり目立ちません。花の基部には棘のような小苞が、小苞の基部には半透明の白い付属物があります。この付属物がヒナタイノコズチと見分けるポイントです。
花が開いてます。これがイノコヅチの花です。
花軸には毛が生えます。
茎の特徴
イノコヅチの茎は四角形で、節が固く膨らみ、茎の節は赤く染まることもあるのが特徴です。茎は、大きくなるものでは1mほどの高さにもなります。根元から茎が分かれますが、上部になるにつれて、茎は分かれなくなります。葉と同じように、茎にもうっすらと毛が生えており、この毛はヒナタイノコズチとの見分けるポイントです。
茎です。この茎は四角形をしています。
節です。赤みを帯びていて、節の部分だけ大きく膨らんでいます。
根本です。3本になっているのがイノコヅチの茎です。
果実の特徴
果実はほう果です。花被片に包まれたほう果の中に、種子が1つだけ入っています。棘状の小苞は果実になっても残っていて、人や動物にくっつきます。イノコヅチは、人や動物にくっつき散布させることによって、種子を運ばせるのです。果実には花柱が残っていますが、イノコヅチの果実は熟しても裂けません。
花が終わると果実は下向きにつきます。
ほう果とは?
果実は、種子が熟しても種子は果実の中に入ったままです。その中でも、果皮と種皮が密着しておらず、分かれるものをほう果といいます。
イノコヅチはひっつき虫
イノコヅチの果実はひっつき虫の一種としても知られています。ひっつき虫というのは、秋に人間の洋服や動物の毛などにひっつく植物のことです。ひっついてくるのは種子に間違えられることが多いですが、果実です。果実をひっつかせて、種子を運ばせています。
イノコヅチの名前の由来
イコノヅチはには別名があります。ここでは、イノコヅチの名前の由来や別名について紹介します。
和名の由来
イノコヅチは漢字で書くと「猪子槌」です。これの語源は「猪の小槌」であり、イノコヅチの節が猪の子の膝頭に似ていることから付けられたといわれています。そのほかには、小槌にも似ている様子が由来になっているようです。
別名の由来
イノコヅチは「ヒカゲイノコズチ」と呼ばれることがあります。これは、同じイノコヅチの仲間でヒナタに生息するイノコヅチと区別するために呼ばれはじめた名前です。日陰で生育するのをヒカゲイノコズチ、日向に生育するのをヒナタイノコズチと呼びます。両種はよく似ていますが、イノコヅチだけで呼ばれている場合は、ヒカゲイノコズチのことを指します。
学名の由来
イノコヅチの学名は「Achyranthes bidentata var. japonica」です。属名の「Achyranthes」は「achyon (粉殻)」と「anthos(花)」という単語が語源で、その2つを合わせたものです。イノコヅチの学名は花の付き方や姿に由来しています。
イノコヅチの用途
イノコヅチは食べることや薬効に利用できます。どのようにして食べるのか、薬効はどのようなものなのか紹介します。
食用
イノコヅチは食用として食べることができます。食べる方法は、天ぷら、あえ物、塩ゆで、胡麻和えなどがあります。主に食べられる部分は、イノコヅチの若葉と若芽です。
薬効
イノコヅチは「牛膝(ごしつ)」と呼ばれることもあります。薬効で利用するのは根の部分です。利尿や腹痛、関節痛などに効果があり漢方にも利用されています。薬効で利用されているのはイノコヅチであるヒカゲイノコズチではなくヒナタイノコズチです。ヒカゲイノコズチの根は細いため、薬効には向かないのです。
牛膝とは
牛膝というのは、イノコヅチの生薬名のことです。イノコヅチの節が牛の膝に似ているというのが語源で、牛膝と呼ばれています。ただし、薬効で使うのは節ではなく、根です。
ヒナタイノコズチとの見分け方・違い
イノコヅチの仲間にヒナタイノコズチという植物があります。両種の姿はほどんと同じであり、花期も同じです。環境によって変化することもあるため、なかなか見分けることが難しいかもしれません。ここでは、ヒナタイノコズチの特徴と両種の見分け方を紹介します。
ヒナタイノコズチ
ヒユ科イノコヅチ属の多年草の植物です。日向に生息するイノコヅチとして知られています。花期は8月~9月で、穂状の花序に花をつけ、イノコヅチと似た花を咲かせます。茎は四角形で、節は赤く染まります。葉は、対生で、葉は厚くねじれたり波打ったりするのが特徴です。棘状の小苞が2個あり、付属体が小さいです。毛が多いですが、全体的な姿も形もイノコヅチによく似ています。
見分け方・違い
ヒカゲイノコズチ
ヒナタイノコズチに比べて、毛が少なく、葉の裏は緑色をしています。葉は、薄くねじれたりはしません。また、小苞の付属体が大きいのも見分けるポイントです。林縁などの日陰に生息します。
ヒナタイノコズチ
全体的に毛が多く、葉の裏は毛が生えているせいか白っぽく見えます。葉は厚く、ねじれたり波打ったりします。小苞の付属体は小さいです。道端などの日向に生息するのが特徴で、個体数としてはヒカゲイノコズチより少ないといわれています。
他にも似た植物がある?
イノコヅチに似ているのは、ヒナタイノコズチだけではありません。ヤナギイノコズチもイノコヅチの仲間で、イノコヅチによく似た姿をしています。ここでは、ヤナギイノコズチの特徴とイノコヅチとの見分け方をを説明します。
ヤナギイノコズチ
ヤナギイノコズチは、ヒユ科イノコヅチ属の多年草で林や林縁などの日陰に生息します。ほとんど無毛で、葉は対生し、細長く葉の先端は鋭くとがります。花期は8月~9月で、穂状の花序に花をつけ、花序や花もイノコヅチに似ています。小苞の付属体が小さいのも特徴です。
見分け方
イノコヅチよりも葉が細いことで見分けることができます。それ以外にも、ヤナギイノコズチの葉には光沢があるので、見分けることができます。
まとめ
よく秋に洋服にくっつくことがある種みたいなもの。イノコヅチはそんなひっつき虫の一種です。ヒナタとヒカゲ、さらにヤナギとあってイノコヅチを見分けることは難しいですが、イノコヅチの花はとても特徴的で面白いですよ。ぜひ、イノコヅチを見つけたら観察してみてくださいね!ヒカゲとヒナタ、ヤナギなのか、イノコヅチを見分けるのも楽しいでしょう。
出典:筆者撮影