藤稔(ふじみのり)はどんなぶどう?
藤稔(ふじみのり)はぶどうの品種のひとつで、神奈川県藤沢市の農園で誕生しました。大きな実が特徴で、500円玉サイズのものが一般的です。大きいものだとピンポン玉ほどのサイズもなります。
藤稔誕生の歴史
おいしいぶどうを遠方でも味わってもらうために
藤稔は神奈川県藤沢市の農園で誕生しました。育種者の青木一直さんの農園では、最初は「ピオーネ」と「井川682」という2つの品種を別々に栽培していました。井川682は大粒でおいしいぶどうでしたが長距離の輸送に弱く、また貯蔵性が低いことが欠点だったのです。一方で、ピオーネは輸送性と貯蔵性に優れており、この2種を交配することでよりよいぶどうが誕生するのではないか、と青木さんは考えました。
「人々に喜ばれるぶどう」の誕生
幸運にも1回目の交配で藤稔が誕生し、現在では全国各地で栽培・販売されています。青木さんの農園が神奈川県藤沢市にあり、「藤沢で稔った(実った)」ということから「藤稔(ふじみのり)」と名付けられました。過去には(故)小渕元総理大臣に献上されたこともあり、藤稔は藤沢市を代表するぶどうだといえるでしょう。
収穫時期と旬
藤稔が収穫されて出回る旬の時期は8月中旬~下旬頃です。藤稔の栽培面積のトップ3は、1位が山梨県、2位が兵庫県、3位が神奈川県と続いており、中でも山梨県産のシェアは全体の約34%と、かなりの割合を占めています。山梨県では「大峰(たいほう)」というブランド名の藤稔も存在しており、栽培・収穫がとても盛んです。
派生した品種
藤稔から誕生した品種「ルビーロマン」
赤くて大粒のぶどうである「ルビーロマン」は、藤稔を元に14年の歳月を経て石川県で誕生しました。果粒は巨峰の約2倍の大きさで酸味が少なく、甘くてジューシーな味わいです。8月上旬~9月中旬が旬の時期で、日本では高価なぶどうとして市場に出回っています。
藤稔の特徴
大粒で紫黒色の果皮が特徴的な藤稔は、栽培方法の違いによって種ありのものと、種なしのものが存在します。藤稔のおいしさの秘密を探っていきましょう。
種なしぶどうの作り方って?
ぶどうは受粉が行われると種ありの実ができますが、栽培の過程で「ジベレリン」という植物ホルモンによる処理を施すことで、受粉が行われず種なしのぶどうになります。
特徴①味や糖度
藤稔はみずみずしい食感が特徴です。また、藤稔の糖度は19度と巨峰の18度よりも高く、より甘さを感じられます。藤稔はかなり大粒の品種ですが、皮が厚いのでとてもむきやすいぶどうです。果肉は少し柔らかめですが、口の中に繊維質が残りにくく、子供でも食べやすいです。
特徴②栽培しやすい
日本の土壌の性質として、火山灰質の土地が多いです。そんな火山灰質の土地でも育てやすい、というのが藤稔の特徴のひとつでしょう。限定した栽培地を持たないため、全国各地で栽培されています。「実落ちしやすい」という欠点があり長距離の輸送には向かないのですが、全国的に栽培されているので手に入れやすいです。
藤稔は水分に敏感
藤稔は雨などの水分に敏感に反応します。夏場のような雨の少ない時期に突発的な降雨があると、一気に水分を吸収してしまうため、「玉割れ」という粒が割れてしまう現象が起こります。そのため、畑の水分管理は特に注意しなければならない点です。近年では降水量や猛暑など異常ともいえる気象が続いているため、さらに注意して栽培しなければなりません。おいしい藤稔の栽培はなかなか難しいですね。
藤稔と巨峰やピオーネとの違いは?
藤稔と巨峰との違い
巨峰は「ぶどうの王様」と呼ばれるほど人気が高い品種で、とても甘味が強く豊かなコクがあるのが特徴です。巨峰よりも藤稔のほうが実が大粒で、食感もみずみずしいです。巨峰はぶどうの品種の中でも日本一の栽培面積を誇っているため、藤稔と比較すると、巨峰のほうが手軽に手に入れやすいといえるでしょう。
藤稔とピオーネとの違い
ピオーネは巨峰よりも大粒の実をつけ、「黒い真珠」とも呼ばれます。ピオーネと藤稔を比較すると、藤稔のほうが大粒の実です。上品でまろやかな味のピオーネは、皮ごと食べられます。また、5月~12月にかけて長期間出荷されるため、年間を通して長く楽しめる品種です。
藤稔とピオーネを掛け合わせた「ブラックビート」
藤稔とピオーネを交配した品種は「ブラックビート」と呼ばれています。香りが控えめな一方で、かじったときに果汁が口いっぱいに広がるジューシーなぶどうです。熊本県や東京都、香川県で栽培されていますが、比較的新しい品種ということもあり、生産量はまだまだ少なく手に入れるのは難しいです。
藤稔の選び方・食べ方・保存方法
おいしい藤稔の選び方のコツ
おいしい藤稔を選ぶときは、大きな粒の中に実がしっかりと詰まっていて、皮の色付きが濃いものを選ぶようにしましょう。また、鮮度のよいものには、皮に白い果粉(ブルーム)がしっかりとついています。実がついている軸が茶色く枯れていないことや、皮に張りがあるかどうかもよく確認しましょう。
果粉(ブルーム)って何?
果粉(ブルーム)とは果実から分泌されるろう状の天然物質で、人体には無害です。よく熟した新鮮な果実に見られます。果実からの水分蒸発を防ぐほか、病気から果実を守るといった役割を果たします。そのため、果実の鮮度の指標として考えられます。
おすすめの食べ方
藤稔は皮が厚いので、皮をむいて果肉だけを楽しむのが一般的な食べ方です。大粒なので、ケーキやパフェなどのトッピングに使ったり、ジュースやジャムにしたり、冷凍庫に入れてシャーベット状にしたり、生でそのまま食べるのとはまた違った食べ方も楽しめます。
保存方法
藤稔をはじめとしたぶどうは、ポリ袋や新聞紙、ラップなどで包んでおき乾燥を防ぐようにします。保存場所は冷暗所や冷蔵庫の野菜室がおすすめです。状態にもよりますが、日持ちの目安は2~4日です。冷凍することで長期保存もできます。冷凍保存するときは粒をばらばらにして、保存袋に入れて保存しましょう。
藤稔の効能
藤稔をはじめとしたぶどうは栄養豊富で、欧州では「畑のミルク」と表現されることもあり、吸収されやすい糖質であるブドウ糖や果糖が豊富です。黒や赤系の皮には「アントシアニン」というポリフェノールの一種が豊富に含まれています。
効能①抗酸化作用
藤稔に含まれるアントシアニンは、ストレスや紫外線が原因で体内に過剰に発生した活性酸素から血管を守り、血栓を発生しにくくします。そのため、動脈硬化や血栓症、虚血性心疾患、脳血管障害などの予防効果が期待できます。
効能②目の疲労回復
藤稔をはじめとするぶどうには、目の疲労回復効果が期待できます。目の酷使などでロドプシンを再合成する力が衰えると眼精疲労に繋がります。アントシアニンはロドプシンの再合成を促進することで、目の疲労回復を促しているのです。数種類存在しているポリフェノールの中でも、特にアントシアニンは目の疲労回復に効果を示します。
ボタニ子
食べ比べも楽しみ方のひとつ
同じ黒ぶどうである藤稔、巨峰、ピオーネの3種類を食べ比べしてみるのも楽しみ方のひとつです。大きさや味がそれぞれ異なるので、楽しく味わえますよ。大粒で甘い藤稔を、ぜひ一度食べてみてくださいね。
ロドプシンは目の網膜に光が当たると分解され、脳に視覚信号を伝える役割を果たす色素です。目を酷使するとロドプシンの分解が進む一方で再合成が追いつかなくなり、眼精疲労に繋がります。