寄生植物とは
寄生植物(きせいしょくぶつ)は、ほかの植物に寄生し、寄生した植物が生成する栄養分を吸収し生育する植物の総称です。寄生植物は「寄生根」と呼ばれる特殊化した吸根を持ち、この根が相手植物(寄主または宿主)の組織と結合して栄養分を吸収します。世界では、約28科に属する4500種の寄生植物が確認されています。
寄生植物の代表種7種
寄生植物の代表種①ヤドリギ
ビャクダン科ヤドリギ属のヤドリギはクリスマスイブの誕生花であり、西洋ではクリスマスには欠かせない装飾用植物です。日本では、北海道から九州の落葉広葉樹を宿主として繁殖します。エノキ、ケヤキ、ミズナラ、ブナ、クリ、サクラなどに寄生する特徴があり、冬の樹木の枝にこんもり丸い枝の塊が観察される半寄生植物です。
ヤドリギの寄生法
ヤドリギは種子を鳥に媒介してもらうことで繁殖する鳥散布型の寄生植物です。ヤドリギの種は、樹木の幹や枝に「寄生根」を食い込ませて成長するため、土に種が落ちたとしても発芽できない特徴があります。寄生根が宿主から水と無機の栄養を奪い取りますが、全てを宿主に頼ることはなく、自ら光合成していて成長します。
寄生植物の代表種②ネナシカズラ
ネナシカズラはヒルガオ科に属するツル性の一年草です。日本全国に分布し、日当たりのよい環境を好みます。葉緑素を持たない寄生植物で、宿主の種類は豊富です。発芽した直後は土壌に根を張り、茎を伸ばしつつ寄生先の植物を探す特徴があります。発芽から寄生するまでの数日間は自生しているため、半寄生植物と全寄生植物の中間の部分に位置しているといえるでしょう。
ネナシカズラの寄生法
ネナシカズラは円筒形の白い花を咲かせます。開花後に種子が地面に落ち土壌にて発芽しますが、宿主の体内に侵入したところで主根はまもなく退化するという特殊な生態が大きな特徴です。ツルを旋回させながら宿主を探し、茎を締めつけるように巻きつき、酵素を使い寄生根で寄主の茎の維管束に侵入します。自身に必要な水と養分をホスト植物から乗っ取る、茎吸着系寄生植物です。
寄生植物の代表種③ナンバンギセル
ナンバンギセルは、北海道~沖縄まで広く分布するハマウツボ科ナンバンギセル属の全寄生植物です。南蛮人と呼ばれていた西洋人が使う煙管(キセル)の形に似ているという特徴から「南蛮煙管」と呼ばれるようになりました。また、万葉集では思草(おもいぐさ)の名前で出てきます。イネ科の単子葉植物の根に寄生し、開花して結実した実が熟すると、種をばらまいて枯れてしまう一年草です。
ナンバンギセルの寄生法
ナンバンギセルは、自分では光合成をしないため葉が退化し、ホスト植物に完全に頼って生息する特殊な生態の全寄生植物です。8月~10月頃に煙管の形によく似た赤紫色の花を咲かせ、種子を実らせたのち風に飛ばされます。寄主の例として、ススキ、ミョウガ、サトウキビが挙げられ、寄生先の根から宿主の水や栄養分を乗っ取ることにより成長します。
寄生植物の代表種④ラフレシア
世界一大きな花とも呼ばれるラフレシアは、直径が90cmにもおよぶ巨大な花を咲かせます。ラフレシアの花は非常に臭いにおいを発することで知られています。2年ほどの年月をかけ成長し花を咲かせますが、花の寿命はたったの数日間と、見た目だけでなく生態も特殊です。東南アジアやマレー半島などに生息し、茎も葉もなく花だけを咲かせる珍しい寄生植物です。
ラフレシアの寄生法
花が非常に臭いにおいを放つ理由は、花粉媒介者であるオビキンバエを寄せ集めるためです。ハエによって受粉が成立し、小動物によって運ばれた種子は、新たな宿主のもとに寄生しますが、寄生先はブドウ科シッサス属の植物に限られています。ラフレシアは宿主の根に菌糸状に寄生する根吸着寄生植物であり、水や栄養素を搾取し完全に宿主に依存する全寄生植物です。
寄生植物の代表種⑤ビャクダン
インドやオーストラリアが主な産出国であるビャクダンは、香木として有名な半寄生植物です。ビャクダンは発芽後に独立して生育し、寄生根を使って宿主の根に寄生します。イネ科やアオイ科の植物に寄生したのち成長するにつれて寄生性も高まり、タケ類やヤシ類などへと移ることも観察されています。ホスト植物は140種以上です。
ビャクダンの寄生法
ビャクダンの開花時期は5月~6月で、枝先に鐘形の花を咲かせます。受粉が成立すれば、比較的大きい1cmほどの球形の核果を作ります。しかし、雌雄異株で周囲に植物がないと生育しないことから栽培は大変困難です。甘い果実は鳥に好まれ、鳥と共に新しい寄生場所にたどり着き、繁殖していきます。半寄生生活のビャクダンは、寄生根を宿主の根に寄生する根吸着寄生植物です。
寄生植物の代表種⑥オーストラリアン・クリスマスツリー
オーストラリア西部原産のオーストラリアン・クリスマスツリー(英:Nuytsia floribunda)は、ヤドリギ科の植物です。10月~1月のクリスマス時期に鮮やかな黄色みの強いオレンジ色の花を咲かせるため、オーストラリアン・クリスマスツリーと呼ばれています。10mほどの高さまで成長し、目を見張るほどの鮮やかな花が特徴的な半寄生植物です。
オーストラリアンクリスマスツリーの寄生法
甘い蜜を持つ花は虫を呼び種子が形成され、その種が新たな芽を息吹かせます。葉緑素を持ち自ら光合成もできますが、吸根を使い宿主の根から水とミネラルを乗っ取る生態をもつ半寄生植物です。広範囲の多くの樹木の根に寄生し、各寄生先から少しずつ養分や水を搾取します。あらゆる樹木、ケーブルにも絡みつくほど相手を選ばす広範囲に根を張る特徴があります。
寄生植物の代表種⑦ハマウツボ
ハマウツボ科のハマウツボは、日本全土に分布し海岸や河原の砂地を好む一年草の全寄生植物です。矢を入れる筒形細長い籠である靭(うつぼ)に花穂が似ているためハマウツボと呼ばれています。宿主の例としては、キク科のヨモギ属、とくにカワラヨモギに寄生することが多い全寄生植物です。茎の上部に多数の淡い紫色の花が穂状に咲きます。
ハマウツボの寄生法
ハマウツボの花から形成される黒く小さな球形の種子が、ヨモギ属の宿主の根元にたどり着くことで、一年草の新しいサイクルが始まります。葉緑素を持たないハマウツボの葉は退化し、枯れたような鱗片状です。これは典型的な全寄生植物の特徴です。光合成をしないハマウツボは、吸根を使い宿主の根から水や養分など全てを取り込み、寄生先に完全に依存します。
全寄生植物と半寄生植物の違い
全寄生植物とは
全寄生植物は、寄生根や生殖器官である花以外の部分は退化した植物が多く、葉は鱗片化して茎に密着し、葉があるようには見えないのが特徴です。光合成をするために必要な葉緑素を一切持たず、自らの生存に必要な水や栄養分はすべて、寄生するホスト植物に完全に依存する植物が全寄生植物です。そのため、宿主の成長に悪影響を及ぼす存在でもあります。
半寄生植物とは
半寄生植物の多くは、葉の退化などは見られないため、一見寄生植物には見えない種類が多いのが特徴です。自分自身の生存のために必要な最低限の養分は、葉緑素を利用して光合成できますが、寄生根から水や養分を吸い上げつつ成長します。宿主に大きな悪影響を及ぼさないような生態バランスを保ち、うまく共生していく植物が半寄生植物です。
寄生植物一覧
下記の一覧を見ればわかるように、同じ寄生植物でも違った特徴があります。大半の寄生植物は、宿主の根に吸根を侵入させ必要な水や栄養素を奪います。根に寄生する「根吸着寄生植物」の代表的な例はナンバンギセル、ラフレシアなどです。また茎に寄生する「茎吸着寄生植物」もあり、ツル性のネナシカズラが代表的な例です。
植物名 | 寄生度 | 寄生部位 |
ヤドリギ | 半寄生植物 | 幹・枝 |
ネナシカズラ | 半~全寄生植物 | 茎 |
ナンバンギセル | 全寄生植物 | 根 |
ラフレシア | 全寄生植物 | 根 |
ビャクダン | 半寄生植物 | 根 |
オーストラリアンクリスマスツリー | 半寄生植物 | 根 |
ハマウツボ | 全寄生植物 | 根 |
共生する寄生植物
共生という生き方を選んだ寄生植物は、寄生主の種類数が少ないと寄生率が低くなります。寄生生活も決して簡単ではありません。また宿主の栄養分を全て横取りしてしまえば、宿主が死んでしまいます。そのため多くの寄生植物は、宿主の組織や生態を破壊しないように、ちょうどよいバランスを保ち寄生しているようです。なんともずる賢く興味深い植物といえるでしょう。