彼岸花の利用方法
利用方法①動物対策
もぐら・ねずみ
諸説ありますが、彼岸花が畑の土手や田んぼのあぜ道に多く植わっているのは、もぐらやねずみを寄せ付けないようにする目的がありました。もぐらやねずみが地中に穴を掘ると、農作物の根を傷つけたり、土手が決壊したりするからです。彼岸花の毒性や青臭いにおいをきらって、ミミズや昆虫の幼虫などがいなくなるので、エサがない場所に害獣がこなくなる説もあります。
ボタニ子
イノシシ
イノシシの作物の掘り返し予防に、彼岸花が利用されることもあります。現在、人里近くに自生しているのは、以前利用するために栽培していた彼岸花の子孫です。イノシシの場合、1列や2列植えたくらいではまったく効果はないようですが、畑のある場所の周り一面にびっしりと植えると、侵入してきて掘り返す回数が減ったという報告があります。
寺・墓地
遺体を守るための害獣よけとして、有毒の彼岸花を寺や墓地の近くに植えました。現在の日本は火葬して埋葬するのが通常です。明治初期までは土葬といって、遺体を棺のまま土に埋め、自然にかえす葬送でした。遺体がいたんでくると、においで野生動物が集まり、傷つけることがありました。彼岸花の別名に「死人花」「幽霊花」などがあるのはそのせいでしょう。
利用方法②植物対策
彼岸花が田んぼや畑のあぜ道や土手によく咲くのは、雑草対策として以前栽培されていたからです。彼岸花は、近くに生える植物の発芽や成長を邪魔する、植物育成阻害活性が強いためです。雑草を抜く手間を考えると、有毒であっても彼岸花を植えておいたほうが楽だからでしょう。さらに、害獣も防げるとなれば、一石二鳥です。
利用方法③食用
彼岸花は、現代ではまず口にすることはありません。しかし、凶作が続き飢饉があった時代には、彼岸花の球根を食べていたことがありました。彼岸花の球根はでんぷん質なので、でんぷん部分のみを食します。そのままでは毒に当たるので、でんぷんを取り出す毒抜き方法で、汁ものやそばがきのようなものを作って、飢えをしのぎました。
彼岸花の毒抜き方法
- 手袋をはめ、彼岸花の球根の皮をむききれいに洗う
- 金属製でないすりおろし器でするか、フードプロセッサーですりおろす
- 布巾やさらしなどにくるみ、水の中でよくもみ、でんぷん質を抽出させる
- 2時間ほど放置してでんぷんが下に沈むのを待つ
- 待ち時間はようすをみながら調整し、最低7回はくりかえす
- 最後に残ったでんぷん質が毒抜きした彼岸花粉
ボタニ子
彼岸花の球根をすりおろして、もみだした液体は、致死量のリコリンが入っているから、絶対に口にしないでね。
ボタ爺
球根約1kgから彼岸花粉は20gくらいしかとれんぞ。非常に非効率的だが、飢えをしのぐにはしかたなかったかもな。
利用方法④漢方薬
彼岸花の根は「石蒜(せきさん)」という名前の漢方薬として使用されています。以前は民間療法で、痰切りや咳止め、鎮痛剤や催吐剤(ほかの毒物を飲んだときに強制的に吐かせる薬)として内服されていましたが、毒性が強すぎるので現在では、外用のみの使用です。唐胡麻(とうごま)の種と一緒に練って土踏まずに湿布します。
ボタニ子
捻挫(ねんざ)や打ち身、あかぎれなんかに効くらしいわ。腎臓病の浮腫(むくみ)をとる効果もあるんですって。
ボタ爺
漢方薬ではあるが、やっぱり毒を触るので自分で作るのは避けたほうがよいな。使いたいときは薬剤師さんに聞くと安心だの。
彼岸花の仲間
ショウキズイセン
ショウキズイセンは、夏の終わり~秋にかけて、50cm~60cmの花茎を伸ばし、黄色い花を咲かせます。ヒガンバナ科の中では一番花が大きく、直径が6cm~7cmで、横向に5個~10個の花を咲かせます。ショウキズイセンは「鍾馗水仙」と書き、別名はショウキランです。ラン科の腐生植物に同名のものがあります。
ボタニ子
ヒガンバナは種を作らないけれど、ショウキランは蒴果(種ができるとはじける)をつけることがあるの。
シロバナマンジュシャゲ
シロバナマンジュシャゲは、夏~秋にかけて白い花を咲かせるショウキズイセンとの交雑種です。花びらは彼岸花よりもそりがなく、波打ちもほとんどありません。花茎は30cm~60cm、花の数は6個~8個です。花弁は真っ白なもののほかに、ほんのりピンクや黄色が混ざっているものもあります。自生地は日本では九州、朝鮮半島では済州島です。
有毒でも美しい彼岸花を愛でよう
彼岸花は有毒で、毒抜きせずに致死量を食べれば大事にいたる植物です。しかし、飢饉のない現代、彼岸花を食べなければならないことはなく、寺や墓地の近くに咲いているからといって、縁起が悪いこともありません。よく見れば個性的で魅惑的な花です。花色も赤のほかに白やピンク、紫や黄色など豊富にあります。有毒だからといって毛嫌いせず、秋の訪れを告げる美しい花を愛でましょう。
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もぐらやねずみの開けた小さい穴でも、たくさんあれば、土手が崩れちゃうこともあったのね。