バナナは手軽で人気の果物
バナナは世代を超えて愛されている果物です。その証拠に、総務省が行っている家計調査によると、令和元年度1世帯あたりの果物年間消費量の1位がバナナです。おいしいのはもちろんですが、栄養価も高く、皮を手で剥けば丸ごと食べられるという手軽さも人気の理由にあげられます。
バナナに種はある?ない?
おなじみのバナナには種がない!
食べるのが簡単なバナナですが、バナナの中に種らしきものは見当たりません。バナナには果物の子孫を残すために必要な種があるのかと疑問を抱く人もいます。実は、おなじみのバナナには種がありません。しかし、かつて種はありました。種の痕跡は、今もしっかりと残っています。
バナナに種の名残がある
私たちがよく食べるバナナは、フィリピン産やエクアドル産、そして台湾産などの品種です。これらのバナナの果肉をよく見ると、真ん中を貫くようにして少し色が濃くなり、さらに黒い点々があります。それはもともと種があったことを意味しており、種の名残なのです。口の中に残ることもなく、食感も変わらず食べられるので、気が付かない方も多いでしょう。
原種のバナナに種はある
一般的に食べられている種のないバナナは、原種が変異した品種です。原種となった野生のバナナには種があります。バナナの種は黒くて硬く、小豆くらいの大きさでバナナの実にちりばめられるように存在しています。種のあるバナナは絶滅しているわけではなく、現在もフィリピンやマレーシアなどの東南アジアの一部では食べるところもあるようです。旅行で訪れたときなどに食べるチャンスがあるかもしれません。
バナナの種の変遷
もともと小豆ほどの大きさの種があったバナナですが、一般的に食べられている現在のバナナには種がありません。その変化のカギを握るのは、突然変異です。
突然変異で種がなくなった
もともとの野生のバナナは、ほとんどの植物と同じく2種類の染色体のセットをもっている2倍体です。ところが、突然変異により3倍体のバナナが生まれました。3倍体になると、卵子・精子の形成時におこる減数分裂が正常に行われなくなるため、子孫を残す種が作られなくなってしまいます。これが、種なしバナナの始まりです。
ボタニ子
なめらかな果肉を丸ごと食べられるのは、種がなくなったことを意味しているのですね。
意図的に残された
突然変異で生まれた種なしバナナは、種を取り出す必要がなく簡単に食べられるため、人間にとって都合のよい食べ物でした。種なしバナナができる3倍体の苗からは、種なしバナナしかできません。そこで意図的に種なしバナナができる苗を採取して数を増やしていき、おなじみの種なしバナナが広まっていきました。
種がないならバナナはどうやって増えるの?
種のないバナナは、バナナの木の根元からでてくる吸芽(新芽)を使って新しい実を育てます。吸芽にはタケノコのような細長い葉の「剣吸芽」と、広い葉が出る「水吸芽」があります。剣吸芽のほうが水吸芽よりも生育がよく、実の数も多くなるのが一般的です。吸芽を20cm程度まで成長させてから株分けして植え付けると、半年以上過ぎたころにバナナが収穫できます。
バナナのおもしろい豆知識
バナナの木は木ではない
バナナの木は2~10mまで成長しますが、この高さを支えているのは、実は木ではありません。バナナは樹木ではなく、バショウ科バショウ属の多年草です。バナナの木に見える部分は「仮茎」であり、柔らかい葉が玉ねぎのように幾重にも重なり合って伸びていきます。
実をつけたら枯れる
バナナは木ではなく草のため、多くの野菜のように一度実をつけたら枯れてしまいます。しかし、本当の茎が地下に生育しており、枯れた草の根元から吸芽(新芽)が出てきます。
巨大な苞から花と果実が現れる
吸芽を畑に植え付けてから半年ほどたつと、幾重にも葉が重なった仮茎から大きなふくらみが現れます。このふくらみは赤紫色の苞(ほう)で覆われていますが、しだいに垂れ下がって巨大な筆先の風貌を帯びてきます。苞で覆われたふくらみは、大人が抱きかかえるほどの大きさになるものもあり、中にはバナナの実と花が包まれているのです。
1つの花に1本のバナナができる
一つの苞の中には複数の果房(果段)がついていて、各果房には10~20本ほどの果指があります。果指の先が花で、果指自体がバナナの実です。巨大な苞は時間とともに1枚ずつ外側にめくられて、中から白い花を付けた果指が見えてきます。果指の一本一本がバナナになるため、バナナの数だけ花があるということです。花が咲いているときの実はまだ小さいですが、花が枯れるとバナナがぐんと成長してきます。
バナナは成長しながら向きを変える
垂れ下がった大きな苞の中から姿を現したバナナは、下向きでくっつき合いながら並んでいます。下に向いた鼻先に白い花が咲きますが、花が枯れて実が成長してくると、バナナは太陽のほうに反り返って伸びていきます。まるで逆さ吊りから腹筋をしているような状態です。この成長の過程によって、多くの人が見慣れているバナナの形ができあがります。
よく食べられるバナナの種類
種がなくなったバナナにはさまざまな品種があります。皮の色や大きさや形にはさまざまな違いがありますが、黄白色の果肉のやわらかな食感は共通しています。
種類➀ジャイアント・キャベンディッシュ
ジャイアント・キャベンディッシュは、日本で売られているバナナの8割を占めているフィリピンの品種です。メーカーによって「甘熟王」や「スイーティオ」「高原バナナ」などの名で販売されています。皮が厚くしっかりとしていて、果肉はきめ細やかでなめらか、さっぱりとした甘さが特徴です。日持ちのよさにも定評があります。
種類②グラネイン
グラネインはエクアドル産のバナナで、フィリピン産のバナナに姿かたちは似ていますが、より深みのある甘さが特徴です。「サニートバナナ」「エナーノバナナ」などの名で販売されています。
種類③北蕉(ほくしょう)・新北蕉
北蕉と新北蕉は台湾産のバナナの品種です。フィリピン産やエクアドル産のバナナに比べると、台湾産のバナナは太くて短い形をしています。ねっとりとした舌触りと濃厚な味わいが特徴で、とても香り高いバナナです。流通量が少なく、価格も高めに設定されています。
種類④セニョリータ
セニョリータは主にフィリピンから輸入されているバナナで、7~9cmほどのかわいらしい品種です。モンキーバナナとも呼ばれています。果肉はやわらかく、濃厚な甘味があります。形が小さく皮が薄いため、子どもでも食べやすいバナナです。
種類⑤モラード
モラードはフィリピンやエクアドルから輸入され、赤茶色の皮の色から「レッドバナナ」とも呼ばれています。少し太めで短く、円筒形をしているのが特徴です。皮は赤茶色でも果肉は美しい黄白色をしており、あっさりとした甘味と少々の酸味を持ち合わせています。
種類⑥島バナナ
島バナナは、沖縄県や奄美諸島で栽培されている小型バナナです。濃厚な甘さのなかに柑橘系のようなフルーティーな酸味が味わえる、魅力的なバナナです。台風などの影響で生産量が安定しないことから、残念ながら本州ではほとんど販売されていません。
バナナの種に感謝して食べよう
バナナは季節を問わずに手に入り、手ごろな価格であることから、買い置きしやすい果物の一つです。しかも白くて美しい実は甘くてとても柔らかく、どの世代の人でも食べやすい果物といえるでしょう。このおいしさは、存在を消した種のおかげでもあるのです。いまは名残となった種の存在に感謝をしながら、これからも甘くておいしいバナナを食べていきましょう。
出典:写真AC