ウスバサイシンの仲間
冬場には地上部がすべて枯れてしまうウスバサイシン(学名:Asiasarum sieboldii)には、仲間があります。名前には「アオイ」とつくもの、「サイシン」とつくもの両方がありますので、見分け方の指標にはならないところが厄介です。ウスバサイシンとその仲間の違いをみてみましょう。
ウスバサイシンの仲間①フタバアオイ
主に山地に生息し、フタバアオイの名前は茎の先に2枚の葉をつけることに由来します。徳川家の葵の御紋はこのフタバアオイの葉を3枚組み合わせた文様です。京都、加茂神社の葵祭にもこのフタバアオイが使われます。
花の特徴
直径1.5cm程のお椀型、紫っぽい茶色の花が下向きに咲きます。花弁に見えるのは全て萼片で、萼裂片は先端が3つに分かれ萼筒にぴったりと沿いながら折り返り、張りついたようにみえます。柱頭は放射状に広がるのが特徴です。
葉の特徴
葉は4~8cm長さの卵円心形で、長さと幅がほぼ同一の丸っこいハート型、表面には明確な凹凸があり、美しい文様が浮き出ます。
ウスバサイシンの仲間②クロフネサイシン
草丈は8~15cmほどになります。九州以北に分布するウスバサイシンの西南型といわれ、四国や九州にも分布しています。
花の特徴
花期は4~5月、萼筒は直径約2cm、ウスバサイシンと同様に扁球形、萼裂片の先端は3つに分かれ、三角状の卵型に広い角度で斜めに開きます。色がやや薄く、雄しべ6本、花柱3本とウスバサイシンの半分です。
葉の特徴
ウスバサイシンの葉より縦に細長いハート形で長さは約4~6cm、表面に粗い凹凸があります。
ウスバサイシンの仲間③オクエゾサイシン
オクエゾサイシンは漢字にすると「奥蝦夷細辛」です。奥蝦夷、つまり樺太、サハリン、東北地方北部に分布するウスバサイシンの仲間です。
花の特徴
5~6月に花をつけます。萼筒は暗い紫色の扁球形、萼裂片が花弁状になり、探さ4~9mm、幅約5~10mm程度の三角の広卵型、先端が尖っていて、外側に向かって大きく反り返るのが特徴です。表面は短い毛で覆われます。
葉の特徴
葉の厚みは薄く、長さ4~10cm、幅は3.5~10cmほどの広卵型、鈍く尖った先端縦に、全体的に丸っこいハート形をしています。葉の表面には短い毛がみえます。
生薬としてのウスバサイシン
ウスバサイシンは漢方の生薬「細辛」として利用されてきた歴史があります。薬用とされるのは、ウスバサイシンまたはケイリンサンシンの根及び根茎のみと決められています。現在では日本産の細辛はほぼ無く、大部分を輸入に頼っています。
効能
メチルオイゲノールを主とするウスバサイシンの精油成分は、鎮痛、鎮静、解熱などの効能が認められるといわれます。発汗作用や体を温めて冷えを解消し、悪寒、せきやたんをともなう風邪などに用いられることが多いようです。漢方では、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)などに処方されます。
麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)
構成生薬の細辛、附子、麻黄の組み合わせで、咽喉痛を伴う寒気の強い風邪に用いられる。
使用にあたっての注意点
生薬の細辛として使用されるのは根及び根茎のみで、地上部が使われません。地上部には腎障害の原因となる成分が含まれており、日本では使用されませんが、日本以外の国で処方されたものには地上部を含むこともあるので、同じ漢方名でも使用部位によっては成分が異なるため注意が必要です。
まとめ
ウスバサイシンとその仲間の違いや見分け方は簡単ではないようです。花も種も一癖あって、少し変わり者というイメージですが、私たちの健康の維持にも役立つ薬草として、今後も注目していきたい植物です。
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