ヤマエンゴサク(山延胡索)とは
ヤマエンゴサク(山延胡索)はケシ科の植物で、「ヤブエンゴサク(藪延胡索)」「ササバエンゴサク(笹葉延胡索)」などの別名を持つ多年草です。日本では本州、四国、九州の落葉広葉樹の林床や道端に分布しています。ヤマエンゴサクは春先に開花し、夏まで葉を茂らせた後は地上部が枯れる「春植物」と呼ばれる植物です。春植物は地上部が枯れた後は、翌年の春まで地下の塊茎だけで過ごします。
春植物は「スプリング・エフェメラル」と呼ばれています。直訳すると「春の短い命」という意味です。
ヤマエンゴサクと同じく、スプリング・エフェメラル(春植物)と呼ばれている植物は、フクジュソウやイチリンソウなどが有名だよ。
ヤマエンゴサクの基本情報
園芸部類 | 山野草、多年草 |
科名・属名 | ケシ科キケマン属 |
樹高・草丈 | 10cm~20cm |
花の色 | 青藤色、紫色 |
耐寒性 | 普通 |
耐暑性 | やや弱い |
特性・用途 | 落葉性 |
開花時期 | 4月~5月 |
名前の由来
ヤマエンゴサクの「エンゴサク(延胡索)」は、中国の漢方薬「延胡索」が由来です。「山で育つ延胡索」という意味で名前がつけられました。延胡索はエンゴサクの塊茎を日干しにして作る薬草で、鎮痛作用があり、婦人科疾患に効能があるといわれています。ただし漢方薬に利用しているエンゴサクは、ほとんどが中国原産種です。
別名の由来
別名の「ヤブエンゴサク(藪延胡索)」は「藪に生えるエンゴサク」という意味です。ヤマエンゴサクが落葉広葉樹林に生息することに由来しています。「ササバエンゴサク(笹葉延胡索)」という名前は、かつて笹に似た形状の葉を持つ品種を、ヤマエンゴサクの変種として扱っていたことから名づけられました。
ヤマエンゴサクの特徴
特徴①花
ヤマエンゴサクは長さ1.5cm~2.5cmの筒状花です。つぼみのうちは苞(ほう)という小さい葉のようなものに包まれています。苞は開花後も花柄の付け根にありますが、小さいうえに花で隠れてしまう位置にあるため、確認しにくいです。
苞は「苞葉(ほうよう)」とも呼ばれています。
特徴②葉
ヤマエンゴサクの葉は互生し、小葉が変異しやすいのが大きな特徴です。小葉の形状は線形~楕円形と幅があり、葉先が3裂するものがあるなど、かなり個体差があります。このため、ヤマエンゴサクの葉の数や形状に関しては、いわゆる「標準モデル」というものがありません。
特徴③果実
ヤマエンゴサクの果実の特徴は、蒴果(さくか)であることです。蒴果とは成熟した後、果皮が乾燥すると裂けて種子を放出するタイプの果実を指します。アサガオやホウセンカの果実が有名ですね。ちなみにヤマエンゴサクの果実の形状は、長さ10mm~15mmの広披針形あるいは狭卵形です。
特徴④食べると危険な有毒植物
ヤマエンゴサクは全草に有毒成分を持つ毒草です。食べると嘔吐や呼吸麻痺などの症状を引き起こす恐れがあります。誤って食べることのないよう注意しましょう。一方で、中国原産種の塊茎は生薬「延胡索」として用いられています。
ヤマエンゴサクのように、食べるのは危険だけど、扱い方によっては薬になる植物は意外に多いよ。
有名な毒草のトリカブトも、弱毒処理を行えば生薬になるんですよ。
ヤマエンゴサクとエゾエンゴサクとの違い
エゾエンゴサクとは
エゾエンゴサク(蝦夷延胡索)はヤマエンゴサクの近縁種で、名前が示すように、おもに北海道に分布する野草です。開花時期はヤマエンゴサクと同じ4月~5月で、青~青紫色の筒状花を咲かせます。ヤマエンゴサクは近縁種や変種などの仲間が多く、見た目も似ている植物が多いです。なかでもエゾエンゴサクは、ヤマエンゴサクと見た目が非常によく似ており、見分けがつきにくいといわれています。
見分け方のポイント
見た目はよく似ているヤマエンゴサクとエゾエンゴサクですが、苞の形状で見分けられます。ヤマエンゴサクの苞は、櫛歯のような切れ込みがあるのが大きな特徴です。さらに葉先が3裂~4裂に分かれています。それに対して、エゾエンゴサクの苞は切れ込みがない、あるいは不規則な切れ込みが入るという特徴があります。
ヤマエンゴサクの種類・仲間
種類・仲間①ジロボウエンゴサク(次郎坊延胡索)
ジロボウエンゴサク(次郎坊延胡索)は、本州関東以西、四国、九州に分布する野草です。ヤマエンゴサクの近縁種であるため、見た目はよく似ていますが、ヤマエンゴサクと比べると全体的に小型で繊細な印象を持っています。変わった名前は、三重県伊勢地方の方言が由来です。伊勢地方では、子どもたちがスミレ(菫)を「太郎坊」、ジロボウエンゴサクを「次郎坊」と呼んでいました。
昔の子どもたちは、互いの花の距(きょ)をからませて、引っ張りあいの勝負をして遊んでいたんだ。
この遊びのなかでスミレを「太郎坊」、ジロボウエンゴサクを「次郎坊」と呼んでいたことが、名前の由来とされています。
種類・仲間②キンキエンゴサク(近畿延胡索)
キンキエンゴサク(近畿延胡索)はヤマエンゴサクの変種です。関東地方~近畿地方のブナ林域を中心に分布しています。近年は数の減少が心配されており、岡山県では準絶滅危惧種に指定されました。キンキエンゴサクの花姿や開花時期は、ヤマエンゴサクとほぼ同じですが、苞の切れ込みが鋭い鋸状になっていることと、種子の表面に突起があることで見分けられます。
ヤマエンゴサクの花言葉
ヤマエンゴサクの花言葉は「思慮深い」「人嫌い」です。山地にひっそりと咲く様子や、春が過ぎて夏に入る頃には、すっかり地上から姿を消してしまうことから、これらの花言葉が生まれたのでしょう。
ヤマエンゴサクの花言葉まとめ
- ヤマエンゴサク全般の花言葉:「思慮深い」「人嫌い」
- 種類別・色別の花言葉はなし
まとめ
ヤマエンゴサクを含めたスプリング・エフェメラル(春植物)は、「春の妖精」とも呼ばれています。春にしか姿を見せないことと、可憐な花姿を持つ種類が多いためでしょう。ヤマエンゴサクの花も可憐で、妖精のイメージにピッタリです。春の山に出かける機会があれば、ヤマエンゴサクの花を探してみてくださいね。
出典:写真AC