植物の季語と俳句<秋>
秋の季語と俳句例①彼岸花
彼岸花は、ヒガンバナ科リコリス属の球根植物です。秋の彼岸のころに花茎だけが地表から伸びて1週間ほどで真っ赤な花が咲き、花が枯れた10月に葉が出てきます。球根には毒性があり、野菜などをモグラやネズミから守るために田畑のあぜ道や墓地の近くに植えられてきました。
季語「彼岸花」の句
- つきぬけて天上の紺曼殊沙華 <山口誓子>
- むらがりていよいよ寂しひがんばな <日野草城>
秋の季語と俳句例②萩
萩は、アジアや北米に分布するマメ科ハギ属の落葉低木で万葉集のころから詩歌に詠まれてきた植物です。枝葉はしなやかで垂れやすく、7月~10月に小さな赤紫色の花が咲きます。日本では秋の七草の一つとして親しまれ、「萩」の文字が作られました。遠くの萩は「遠萩(とおはぎ)」と表現できます。
季語「萩」の句
- 行き行きてたふれふすとも萩の原 <河合曾良>
- 萩の風何か急かるる何ならむ <水原秋櫻子>
- 遠萩にただよふ紅や雨の中 <松本たかし>
ボタ爺
曾良の句は、「奥の細道」収蔵。旅の途中で病気になり、芭蕉に同行できなくなって別の地に発つときに詠んだ句じゃ。
秋の季語と俳句例③菊
菊は、10月おろに見ごろを迎えるキク科キク属の多年草です。菊が原産地の中国から持ち込まれたのは奈良時代あたりで、菊を詠んだ歌は万葉集にはなく古今集には登場します。江戸時代に盛んに育種されるようになり庶民に浸透し、各地で観賞会などが行われるようになりました。
季語「菊」の句
- 菊の香や奈良には古き仏たち <松尾芭蕉>
- 道ばたに伏して小菊の情あり <富安風生>
- たそがれてなまめく菊のけはひかな <宮沢賢治>
菊関連の季語には、「菊の香」「菊日和」「菊花展」「菊人形」「残菊」(晩秋)などがあります。
秋の季語と俳句例④コスモス
コスモスはメキシコなどが原産のキク科の一年草です。日本には明治時代にヨーロッパ経由でもちこまれ、秋に咲く親しみやすい花として普及し、秋桜の和名が付きました。6月の終わりごろから晩秋まで咲き、10月ごろが見ごろです。
季語「コスモス」の句
- 枯るるまで風に従ふ秋桜 <西村和子>
- 別れぎわコスモスよりも揺れてけり <徳弘純>
コスモスよりも揺れていたのは何だろう。読み手の心も揺れるよ。
そのほかの植物関連季語と俳句例
季節 | 主な季語一覧 |
秋 | すすき、葛、草の穂、花野、ピーマン、梨、南瓜 |
<初秋> | 桐一葉、桔梗、芙蓉、女郎花、露草、桃、韮の花 |
<仲秋> | 蘭、柳散る、竹伐る、トウモロコシ、初紅葉 |
<晩秋> | 紅葉、団栗、木犀、茸、林檎、柿、松手入れ |
紅葉は楓だけでなく、10月末~12月の色づいた葉全体を表す季語です。「草紅葉」「蔦紅葉」「黄葉」などのほか、特定の樹木の名を付けて「櫨紅葉」「桜紅葉」などと表現できます。
秋の季語:俳句例
- 物かげに芙蓉は花をしまひたる <高浜虚子>
- 紫のふつとふくらむ桔梗かな <正岡子規>
- 後先に人声遠し柿紅葉 <加藤暁台>
- ピーマン切って中を明るくしてあげた <池田澄子>
- 花野ゆくこころに源氏物語 <藤崎久を>
句集「空の庭」収蔵の池田澄子の句は字余りですが、「ピーマン」は3文字くらいの速度感で読むのでそれほど気にならないでしょう。花野は、さまざまな草の花が咲く10月ごろの野原のことです。3月~4月の花の野は春の季語「春の野」を使います。
植物の季語と俳句<冬>
冬の季語と俳句例①山茶花
山茶花は、咲くツバキ科ツバキ属の常緑花木で日本固有種です。開花期は晩秋~冬(10月~12月)で、ピンクや赤、白色の花が次々に咲いては散っていきます。花ごと落ちる椿と異なり、花びらが分かれて散るのが特徴です。
季語「サザンカ」の句
- 山茶花の垣根に人を尋ねけり <正岡子規>
- 山茶花の散るにまかせて晴れ渡り <永井龍男>
冬の季語と俳句例②大根
大根は、冬が旬の野菜です。9月~10月上旬に種をまき、11月~2月に収穫します。原産地は中東や地中海沿岸など諸説あり、日本には弥生時代には伝わっていたようで、オオネやスズシロの名が残っています。江戸時代に広く栽培されるようになりました。
季語「大根」の句
- 大根引き大根で道を教へけり <小林一茶>
- 大根に実の入る旅の寒さかな <斯波園女>
一茶の句のように「だいこ」と3文字で読む(書く)ことも可能です。
ボタニ子
大根引きは、大根を収穫することや収穫する人のことだよ。
そのほかの植物関連季語と俳句例
季節 | 主な季語一覧 |
冬 | 万両、南天の実、室の花、蜜柑、白菜、枯木 |
<初冬> | 柊の花、帰り花、石蕗の花、紅葉散る、花ヤツデ |
<仲冬> | ポインセチア、枇杷の花、シャコバサボテン |
<晩冬> | 水仙、葉牡丹、寒椿、蝋梅、冬すみれ、探梅、霜よけ |
冬の季語:俳句例
- 狐火の燃えつくばかり枯尾花 <与謝蕪村>
- 朴落葉いま銀となりうらがへる <山口青邨>
- 室咲きの花のいとしく美しく <久保田万太郎>
- 水仙や背戸は月夜の水たまり <成田蒼きゅう>
室(むろ)の花は、温室や室内で咲く花のことです。
植物と季語に親しもう
植物の美しさや季節感は、言葉をつむいで表現されてきました。俳句は歴史のある詩形ですが難しくかまえず、季語を入れて五・七・五の形を意識すれば作れます。助詞や切れ字の「や」「かな」などを使って形を整えるのがポイントです。植物や俳句を観賞するとともにぜひ、句づくりにもチャレンジしてみてくださいね。
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出典:写真AC