連作障害の意味
「連作」とはその名の通り、毎年同じ場所に同じ科の野菜を植え続けることをいいます。有名なところでいえば「ナス」「トマト」「ジャガイモ」「ピーマン」はすべて「ナス科」の植物ですが、これらを毎年同じ場所に植え続けると病害虫の被害を大きく受けたり、収穫量が減っていくなどの問題がでてきます。
地域によっては「いや地」「忌地」などとも呼ばれる
「いや地」「忌地」などと呼ぶ地域もあります。原因がはっきりとわかっていないときから、作物の収穫量が落ちる土地を経験として知っていた人々の歴史がうかがえる言葉でしょう。
連作障害で起こる問題
言葉の意味を確認したところで、次は具体的にどのような現象・問題が連作障害によってもたらされるのかをここからみていきましょう。どれも野菜の収量に大きく影響を及ぼしてしまうものです。
土壌病害
土壌病害は、土壌中に存在するウイルスや細菌といった微生物の働きによって起こります。有名なものは青枯れ病や根こぶ病などで、いずれも野菜の収量を減らしてしまうという現象があります。同じものを同じ場所で作り続けることで、土壌中に存在する特定の微生物が増えすぎてしまうのが原因の1つです。
生理障害
続いてあげられる問題が生理障害です。こちらは病気とは異なりますが、人間でいうところの栄養バランスが乱れてしまうことが原因となります。同じ野菜を同じ場所で作り続けることで、土壌中の特定の窒素やリン、カリウムといった微量元素が減り続けてしまうことが原因です。葉の色が黄色くなったり、逆に葉ばかりが茂って実を付けなかったりといった現象が起こります。
土壌虫害
3つめにあげられるものは土壌中に存在する虫の影響です。有名なものはネグサレセンチュウが与えるアブラナ科への影響でしょう。土壌の環境が変化しないことで、センチュウなど野菜にとって悪影響を与える虫が増殖してしまうことが原因です。一度このような現象が畑に現れると、食い止めることが困難で産地を衰退させるほど強い影響力を持ちます。
忌地物質による干渉
言葉を話すことのない植物たちですが、土壌中に「忌地物質」と呼ばれるさまざまな有機物質やフェノール物質を放出することで、他の植物の成長を干渉していることが知られています。他の植物の成長を干渉しているつもりでも、長年連作を行うことで、自分が出した忌地物質によってその作物自身の成長に影響を及ぼしてしまう現象が起こります。
連作障害の原因
野菜をせっかく育てても連作障害により育たないことは避けたいものです。ここまでご紹介してきたように、原因は大きく次の4つがあげられます。
連作障害の原因
- 原因1:細菌類やウイルスなど微生物のバランスが崩れる
- 原因2:土壌中の微量元素のバランスが崩れる
- 原因3:土壌中の生物のバランスが崩れる
- 原因4:植物自身が生成する忌地物質による影響
つまり、同じ野菜を同じ場所で作り続けるということは、毎年その場所から同じ「微量元素」のみが野菜に吸収され、特定の微生物や生物のみが増殖しやすい環境に陥りやすくしてしまうといえます。水や空気、微量元素など自然のバランスに従って循環していたサイクルを連作によって止めてしまうことが大きな原因といえるでしょう。
連作障害は家庭菜園ほど要注意!
連作障害によってさまざまな現象が引き起こされることがわかりました。この現象の原因を把握すると、家庭菜園はおこりやすいことがよくおわかりいただけたことでしょう。限られたスペースで、毎年同じものを作りがちな家庭菜園ほど、注意が必要です。
連作障害を防止するには
意味や原因を抑えたところで、次はどうすればそれを防止することができるのかポイントを確認していきましょう。先述したように、土壌中のさまざまなバランスを意識することが大きなポイントです。
①輪作
防止するもっとも有名な方法は「輪作(りんさく)」でしょう。輪作の意味ですが、その名の通り植える作物を順番に移動させていく方法をいいます。具体的には、畑を3~5つほどに区画分けし、毎年植える野菜を科目ごと(ナス科、アブラナ科、マメ科など)順番に移動させていくというものです。
連作年限の意味
輪作の計画を立てる上で知っておきたい言葉が「連作年限」です。例えばじゃがいもの連作年限は2~3年と言われています。じゃがいもを育てたその場所は、その後2~3年はジャガイモを含むナス科を植えないようにすると防止することができる、という意味です。その年、どの場所で何を作ったかというのはしっかりメモに残しておくようにしましょう。
②多種多様な植物の利用
連作障害防止のために、土壌中の微量元素や微生物のバランスを崩さないようにします。そのために多種多様な植物を同じ場所に植えることも有効です。あえて雑草を残したり、コンパニオンプランツを組み合わせて植え、なるべく自然に近い状態を目指す方法ですので家庭菜園にも用いやすいでしょう。
家庭菜園での連作障害防止におすすめなのがコンパニオンプランツの有効利用です。その言葉の意味や利用の方法を詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
③土壌改良:堆肥・腐葉土
野菜を植える前の土作りの段階や、収穫を終えて一度畑をならす際に土壌改良を行うことも連作障害防止に有効な手段です。土壌改良の意味は、堆肥や腐葉土、化成肥料などを組み合わせて土壌の環境を整えることです。家庭菜園などで、土地が小さく限定されている場合、輪作を行うこと自体難しい場合もあるでしょう。そのようなときにこの土壌改良は有効です。
④土壌改良:天地返し・日光消毒
冬の間に堆肥を入れ、土壌改良を行う際にはぜひ「天地返し」といって土壌中の土を表面に持ってくるように耕しましょう。冷たい空気にさらされ、暖かい日には日光にあてることで土壌中に過剰に増えた有害な微生物を死滅させるねらいがあります。連作障害のみならず、よい土壌の状態を保ち、一度リセットさせる意味でも天地返し・日光消毒は有効な土壌改良手段です。
土壌改良に用いられる「土壌改良剤」について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
⑤土壌改良:畑を休ませる
何か作物を植えると、その作物によって土壌中の微量元素(窒素・リン酸・カリウムなど)が吸収され、やがて土壌のバランスが崩れるということは、「休ませる」ということも有効な手段です。土を休ませておくと、やがて雑草が生え、微生物がそこで生態系を再構築し、自然の状態へと戻っていきます。
畑を休ませるときは、根粒菌といって土壌に窒素を固定する微生物を共生するマメ科(クローバーなど)の植物などを植えっぱなしにしておくのもおすすめです。また、輪作の計画を立てる際には、「休ませる」という年を設けるのも合わせておすすめです。
土壌改良豆知識
土壌改良と一口に言っても「(堆肥などを)加える」「(日光を利用して)消毒する」「休ませる」といくつかの方法がありました。ここでは豆知識として、私たちが日ごろ目にしている「水田」「シロツメクサ畑」の光景が先人たちの知恵によって生み出された土壌改良の手段であることをご紹介します。
一面のシロツメクサ畑は土を休ませている
電車の窓から眺めていると、一面の美しいシロツメクサが広がる畑などを見た方も多くいらっしゃることでしょう。あれは先述したように、土壌中の窒素の固定を狙ってマメ科の植物であるシロツメクサ(クローバー)を蒔いているためです(他にも動物の飼料として栽培されている場合もあります)。シロツメクサの根に大量の根粒菌が共生し、その菌が土壌中に豊富な窒素をもたらしてくれます。
水田は土壌中の有害微生物増加を抑えている
アジアならではの連作障害を防止する栽培方法があります。それは水田での水稲(すいとう)の栽培です。水が張られた水田では多くの病害虫は長時間生存できません。そのため、病害虫による連作障害を起こしにくいと言われています。水田に対し、土壌中で栽培する稲を陸稲(りくとう)と呼びますが、こちらは水田とは異なる環境のため、連作障害の影響を受けることがわかっています。
出典:写真AC