ひな祭りに飾る花③橘(たちばな)
橘(タチバナ)は日本固有の柑橘類です。古くから親しまれてきた植物で、「古事記」や「日本書紀」にも登場しています。別名を「ヤマトタチバナ」「ニッポンタチバナ」といい、花や葉、果実が家紋などのデザインに用いられてきました。1937年(昭和12年)に制定された文化勲章のデザインは、橘を元にしています。ひな祭りにおいては、桜とともにひな壇の左右を飾る重要な樹木です。
橘の実はみかんによく似ていますが、非常に酸っぱいため、食用には向いていないんですよ。
花の名前の由来
橘の名前の由来は「古事記」「日本書紀」に登場する伝説です。昔、タジマモリ(田道間守、多遅摩毛里)という人物が垂仁(すいにん)天皇の命により、常世の国(とこよのくに:海のかなたにあるという伝説の異世界)へ行き、非時香菓(ときじくのかくのみ)という不老不死の効能を持つ果実を持ち帰りました。この果実が現在の橘であると伝えられています。
橘の名前はタジマモリの名前にちなんだとも、花が立つことから名づけられたともいわれているよ。
ひな祭りに飾る由来
橘がひな壇に飾られる由来は、桜と同じく紫宸殿の庭に植えられているためです。橘が植えられている近くに右近衛府(うこんえふ)が配されていることから、「右近の橘」と呼ばれました。紫宸殿側から見ると右側に植えられています。橘は古くから「不老長寿を意味する果樹」とされ、神聖視されていました。
橘は不老不死の果実の伝説と、常緑性植物であることから、「不老長寿の力を持つ木」として大切にされてきました。
橘を飾るのは「子どもたちには、いつまでも若々しく、元気で長生きして欲しい」という親の願いもこめられているんだろうね。
橘の飾り方
橘は桜とセットでひな壇の左右に飾るのが基本です。ひな壇のモデルである紫宸殿では、紫宸殿側から見て左に桜、右に橘を植えています。ひな祭りの橘もこれにならい、内裏びなから見て右側に飾ります。飾る側から見れば左側に飾ることになるので、左右を間違えないように注意して飾りましょう。家の玄関の左右に桜と橘を飾るのもおすすめです。
ひな祭りに飾る花④菜の花
菜の花は固有の品種名ではなく、アブラナ科の植物の花の総称です。春の花木の代表格が桜なら、菜の花は春の草花の代表格といえるでしょう。明るく鮮やかな黄色もさることながら、食用や油糧用と用途が広い点も菜の花の大きな魅力です。ただし、菜の花がひな祭りの飾りに用いられるようになったのは、近年以降といわれています。
花の名前の由来
菜の花の名前の由来は、食用になることからきました。「菜」には食用という意味があります。実際に菜の花は「油菜(アブラナ)」「菜種菜(ナタネナ)」「花菜(ハナナ)」と呼ばれる植物たちの総称です。食用のほか、油糧用、観賞用としても親しまれてきました。
ひな祭りに飾る由来
菜の花は近年になって、ひな祭りの飾りに用いられるようになった草花です。魔除けや邪気祓いという意味はなく「春の訪れを告げる花」という意味で利用されています。一方で、昔は菜の花から採れる菜種油で火を灯していたことから、「天に召された幼子を偲ぶ」という意味がありました。
菜の花の飾り方
葉の花は春の訪れを告げる花として、生け花やフラワーアレンジメントとして部屋や玄関に飾られることが多いです。桃の花といっしょに生けた作品も多く見られます。ピンクと黄色のコントラストで、春らしい華やかさを演出しましょう。春の季節感を高めるために、おひたしなど料理として供することも多いです。
ひな祭りに飾る花⑤紅白の梅
梅は愛らしい花とよい香りで早春を告げる花木として、古くから愛されてきました。桜が広まる前は梅こそが春の花の代表格とされ、「万葉集」や「古今和歌集」などにも梅を詠んだ和歌が多く掲載されています。花の色は白、淡紅、紅色とさまざまな種類がありますが、ひな祭りに利用されるのは紅と白の二色です。
花の名前の由来
梅の名前の由来は諸説あり、現在も詳細は不明です。有力な説としては中国語の梅の発音「マイ」「ムイ」「メイ」がなまって「ウメ」になったという説、漢方薬として渡来した「烏梅(ウメイ・ウバイ)」がなまった説などがあります。
ひな祭りに飾る由来
紅色の梅は縁起物として珍重されてきた花木です。紅梅には魔除けと厄除けの力があるとされ、白梅は「潔癖」「高貴」「清廉」の象徴とされています。見た目も非常に美しいため、ひな祭り以外でも盆栽や絵画の題材など、いろんな場面で盛んに用いられていました。
紅白の梅の飾り方
紅白の梅はひな壇の道具に用いられています。最上段の真ん中の花が紅白の梅です。一般には「三方(さんぼう)」という台の上に、紅白の梅をつけた熨斗(のし)を差した瓶子(へいし)が載せられています。「桃の節句」ということを考えると、本来最上段の真ん中の花という目立つ位置は桃の花がふさわしいでしょう。しかし、道具を作る職人の考え方や製造工程の都合から、紅白の梅となりました。
紅白の梅は桜と橘の代わりに左右を飾ることもあります。桜の代わりに左を飾るのが白梅、橘の代わりに右を飾るのが紅梅です。
紅白の梅でひな壇や玄関の左右を飾るときも、左右を間違えないように飾ってね。
花の意味を思いながら飾りつけよう
女の子の成長を願う桃の節句は、もともとは魔除けや邪気祓いの儀式を行う日でした。そのため飾る花も、魔除けや縁起がよい意味を持つものが選ばれています。しかし、いつの世も家族の無事や子どもの成長を願う気持ちに変わりはありません。花の美しさを愛でるだけではなく、込められた意味もかみしめながら、ひな祭りを盛り上げましょう。
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出典:写真AC