面白い莢(さや)や種を持つ植物たち
種の役割は、自分たちの子孫を残すことです。そのために一度にたくさんの種を作って発芽率をあげる、風や動物などを利用して遠い場所に運ばれるといった方法で効率よく子孫を残してきました。奇抜な色やユニークな形状は、動物や人間を利用したり、注意を引き付けたりするのに最適です。人間の目には「面白い」「きれい」とうつりますが、植物にとっては子孫を残すための戦法のひとつです。
より遠くへ
植物界では、ほかの植物だけでなく同じ花からこぼれ落ちた種も生存競争のライバルです。莢や種はその植物特有の形状で、風や動物の体を利用して遠くまで運ばれたり、弾けやすい莢の力を利用して遠くまで飛んだりします。植物たちは自分の根付く場所をより遠くに求め、より多くの子孫を増やしていきます。
ユニークな莢を持つ植物
①ニゲラ
ストライプ模様の莢
ニゲラの花は蜘蛛の巣を張り巡らせたような苞(ほう)に包まれおり、その幻想的な花姿からとても人気の高い一年草です。花後には果実が大きく膨らみ、スイカのような特徴のあるストライプ模様の莢ができます。この莢を花壇でそのままドライフラワーにして楽しむのもおすすめです。
別名はクロタネソウ
ストライプ模様の莢を開くと、なかには黒くて小さな種がたくさん入っています。膨らんだ莢から採種し、種を保管して秋にまくのもよいでしょう。ハーブに分類されるニゲラ・サティバの種には辛みがあり、香辛料として料理に使われますが、それ以外の二ゲラには毒性があるため注意しましょう。
ボタ爺
ボタニ子
ニゲラは直根性で移植を嫌うの。多めにまいて発芽のようすを見ながら間引くといいよ。
②フウセンカズラ
風船のような莢
フウセンカズラは、夏から秋にかけてユーモラスな果実をつける一年草です。3cmほどの大きさの果実を真横に切ると、内部は3つの部屋に分かれており、各部屋に1粒ずつ、計3個の種が見られます。こぼれ種でもよく増えるため発芽率のよい植物です。
種は黒地に白いハートのポイント
フウセンカズラの種は5mmぐらいの大きさで、白いハート模様があるのが特徴です。種は吸水率が悪いため、まく場合は一晩水につけるか、表面に少しだけ傷をつけるとよいでしょう。原産地はアジアの熱帯~亜熱帯地域です。水が大好きな植物のため、水切れには注意してください。
ボタニ子
風船みたいな果実も面白いけど、種はサルの顔みたいだね!
ボタ爺
白いハートの部分は、3つに分けられた部屋との接合部分なんじゃよ。ここから種の内部の胚に栄養を供給しているんじゃ。
③ゴウダソウ(ルナリア)
種が透ける和紙のような種
ルナリアは、一度見たら忘れられない和紙のような莢が特徴の植物です。莢の大きさは直径4cmほどで、中には5~10粒の種が入っています。発芽率は80%と高く、群生している場所も多いです。別名は銀色の扇のような見た目のとおり、ギンセンソウ(銀扇草)です。
群生する紫色の花
ルナリアの花色は、一般的な紫のほかに白い花もあります。ヨーロッパが原産のアブラナ科の植物で、開花時期は4~5月です。同じ時期に咲く、アブラナ科のムラサキハナナと間違われやすいのですが、葉に鋸歯が多く、花弁に細かい筋が入るのがルナリアと覚えておくとよいでしょう。
ボタニ子
種の採種は、乾燥した果実をこすると莢が2つにわかれるから簡単だよ。
ボタ爺
莢が取れた果実の中心には和紙のような薄い隔膜だけが残るんじゃ。陽に当たるとキラキラ光ってきれいじゃよ。
⓸シカクマメ
ユーモラスな形の豆
産地直送の野菜売り場などで見かけられることの多くなったシカクマメは熱帯アジア原産で、沖縄では定番の豆科の園芸植物です。莢はひだが付いた細長い形状で、断面が四角いことから「シカクマメ」の名がつきました。英語名は「winged bean」で、訳すと翼のある豆です。
別名「うりずん」の断面図
断面図だとシカクマメの特徴的なひだがよくわかります。沖縄では別名の「うりずん」で親しまれています。「うりずん」は「潤い始め」という、春の芽吹きとなる2~4月の時期の意味です。シカクマメの鮮やかな緑がこの時期に芽吹く植物の色と似ていることが別名の由来です。
ボタニ子
う~ん。天ぷらにしようか、ゆでてマヨネーズをかけようか…。
ボタ爺
わしは断然天ぷら派じゃな!
⑤キンギョソウ
ガイコツのような蒴果(さくか)で有名
キンギョソウはガーデニングでは定番の一年草です。華やかな花は色幅も豊富で人気がありますが、花のあとにできる蒴果がガイコツに似ていることでも有名です。頭部の長さや目や口の部分など、髑髏(どくろ)を思わせる形が鈴なりになった様子には驚かされるかもしれません。
金魚を思わせるキュートな花
キンギョソウの特徴は、水中で揺らめくヒレのような花弁と、金魚のお腹のように膨らんだ花姿です。英語名は「スナップドラゴン」で、花のつくりがドラゴンが口を開けているように見えるところから名づけられました。日本と海外では違った印象でとらえるところが面白いですね。
ボタニ子
なんでガイコツになるのか…自然の造形って不思議よね。
ボタ爺
種はガイコツの目や口に当たる部分の穴からこぼれ出てくるんじゃ。一説では魔除けの効果があるといわれておるぞ。
美しい色の種を持つ植物
①トウゴマ
漆器の質感を思わせる種
大きさが1~2cmのトウゴマの種は、漆器のような模様が特徴です。個体差があり、なかには黒や白っぽいウズラの卵のような柄のものもあります。学名の「Ricinus」はダニを意味しており、茶系で突き出た部分のある種は、文字どおり血を吸って膨らんだダニのお腹のように見えますね。
ひまし油の原料
別名「ヒマ」と呼ばれるトウゴマの種は、下剤であるひまし油の原料として利用されています。種子には油分が多く薬効がある反面、毒素を含むことから取り扱いには注意が必要です。花と茎は鮮やかな赤で、観賞用の植物としても人気があります。
ボタニ子
発芽率は80~90%なんだって!すごーい!
ボタ爺
低温でも固まらない油は、第二次世界大戦前後の航空機の潤滑油としても利用されてたんじゃよ。
②グラスジェムコーン
色の系統が豊富
グラスジェムコーンの特徴は、淡いパステルから鮮やかなビビッド、シックなダークなど、一本のトウモロコシにさまざまな色が混在していることです。ドライフラワーにしてそのまま飾ったり、ビーズの代わりにアクセサリーを作ったりするのにおすすめです。
宝石のようなレインボーコーン
グラスジェムコーンは、「レインボーコーン」「ジュエリーコーン」「虹色トウモロコシ」などと呼ばれる、アメリカ原産の古代種のトウモロコシです。ポップコーン向きのトウモロコシで、ゆでても食べられますが品種改良された園芸種ほどの甘みがなく、あまりおいしくはありません。観賞用として人気がある品種です。
ボタニ子
宝石みたい!青い粒をまいたら青系の実がなるのかな?
ボタ爺
それが謎なんじゃよ。何色の系統になるかは学術的にも解明できていないんじゃ。育ってみてのお楽しみじゃな。
③タビビトノキ
幻想的な青い種
タビビトノキの種は、コバルトブルーというほかに類を見ない色のため、「種子の宝石」という異名をもっています。莢を含む房の大きさは15cmぐらいで、種一粒は2cmほどです。種はオブジェやインテリアとしても人気があり、沖縄などでは比較的よく見られます。
タビビトノキの由来?
タビビトノキの名前の由来には、旅人が喉を潤すために葉鞘にたまった水分を補給したという説や、葉の向きが東西に向かって広がるので方角がわかるという説があります。しかし実際には、旅人の喉が渇くような砂漠地域に育つ植物ではなく、葉の向きも東西に限らないといわれています。あくまでも説とふまえたうえで、実物を見に行くのもよいかもしれません。
ボタニ子
原産地のマダガスカルには、タビビトノキの花の蜜を好むエリマキキツネザルがいて、花粉の運び役になってるんだよ。
ボタ爺
キツネザルが別の花の蜜を吸うときに、鼻先についた花粉で受粉するというわけじゃな。自然界はうまくできてるのぅ。
⓸トウアズキ
漆塗りのような種
トウアズキの種の特徴は、光沢があり赤と黒にはっきりとわかれていることです。てんとう虫を思わせる愛らしい外見ですが、猛毒を持っているという一面もあるため注意してください。毒性は煮ることにより失われ、中国では虫の駆除や、皮膚病の薬として用いられています。
トウアズキの別名
トウアズキ(唐小豆)の別名には、Rosary pea(ロザリオ用のエンドウ豆)、Coral pea(サンゴ色のエンドウ豆)、Crab's eye(蟹の目)、Indian licorice(インディアンの甘草)などがあります。別名からは、装飾品や薬として人々の日常に深く関わってきたことがよくわかりますね。
ボタニ子
わたしなら猛毒と聞いただけで怖くなっちゃうけど…。
ボタ爺
使い方によっては毒も薬になるんじゃよ。まさに表裏一体といったところじゃな。
ボタニ子
次のページでは、何かの形に見える種と羽毛のついた種をご紹介します
発芽率は60%じゃ。一粒ずつの発芽率よりも数で勝負するタイプじゃな。